JR東海、想定外の「異常時」に乗客を守れるか 新幹線内の火災事件を教訓に避難訓練を実施

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JR東海からは216名の社員が訓練に参加(写真提供:JR東海)

昨年6月の火災事件発生後、JR東海はハード、ソフト両面から再発防止に向けた対策を取っている。ハード面では防犯カメラの設置、防煙マスクや耐火手袋の搭載、ソフト面では乗客への不審物の注意喚起や車内持ち込み品のルール改正を行なった。こうした乗客避難訓練もソフト面の対策の一つだ。

しかし、異常事態が起きたときには、マニュアルどおりには進むとは限らない。たとえば、今回は4号車デッキで火災が発生したという想定で後方の車両にいた車掌が3号車に急行したが、火の勢いが強ければ、そもそも3号車に乗り込むことはできない。

「想定外」には社員が柔軟に対応

避難誘導にしても、今回の訓練では乗客役の写真はかばんのような手荷物を持って避難したが、スーツケースや両手いっぱいのお土産袋を抱えた乗客はどうするのか。また、外国人乗客への説明はどうするかなど、ありとあらゆる事態が起こり得る。こうした”想定外”のケースに対して、JR東海は「乗務員や居合わせた社員が臨機応変に対処する」としている。

JR東海の避難訓練は毎回、異なる事態を想定して実施され、手順の確認事項も多岐にわたる。回を重ねれば重ねるほど異常時の対応ノウハウが蓄積されていく。だが、いくら入念な訓練を重ねても、マニュアルからこぼれる事態が将来起こり得るという冷徹な現実にも同時に気づかされる。

世界に誇る新幹線といえど、異常事態に直面した場合、業務システムとしての対応には限界がある。結局のところ、社員一人一人の危機管理意識の高さに頼らざるを得ないのだ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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