脱デフレ政策の徹底で財政収支は改善する 「時期尚早な増税」の判断ミスを繰り返すな

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一般会計だけでなく、地方を含めて歳出と税収のバランスをみることが必要だ(写真:barman/PIXTA)

2017年4月の消費再増税について、安倍首相は景気動向を踏まえて判断するとしている。前回コラムでお伝えしたが、消費増税の先送りを提言する著名な経済学者の意見を踏まえて、再増税の判断を柔軟に行うとみられる。3月分の日銀短観では、製造業を中心に景況感悪化がみられた。米欧や新興国では3月に景況感が改善している中で、日本だけで企業景況感の悪化が目立つ。円高・株安が続いていることに加えて個人消費の停滞が効いていると考える。

総需要不足が続き他国よりも成長停滞がはっきりしている中で、消費増税見送りがより妥当な政策になりつつあると筆者はみている。消費増税で可処分所得の目減りは避けられず、景気回復の一つのエンジンである消費に大きなダメージを及ぼす。そして、前回指摘しように、消費増税を優先すると、企業・政府の所得だけが増え続ける所得分配の歪みをより大きくするだろう。

悲観に傾きすぎている財政状況の認識

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一方、日本の財政状況が深刻であり、増税先送りは望ましくないとの意見は、日本の経済学者からよく聞かれる。メディアが経済学者の主張を頻繁に取り上げるため、増税先送りの猶予がまったくないほど、日本の財政は危機が間近に迫っていると思われる方も多いだろう。ただ、そうした見方は、財政赤字や政府債務が積み上がっている状況や要因について悲観方向に傾きすぎていると考えている。

日本の政府債務規模(GDP比率)は、ギリシャよりも高く危機的状況であるとの見方がよく聞かれる。ただ、政府債務の規模が大きいとしても、ギリシャはユーロ圏にある特殊な通貨制度を有した国であり、ギリシャと日本を同様に考えるのは妥当ではないことは、昨年7月のコラムでも述べたとおりである。

こうした視点を忘れ日本の財政状況を診断し、公的債務が積み上がったという類似点だけを挙げて緊縮財政政策を強行するのは、財政問題への対処法として妥当ではない。誤った診断によって時期尚早な増税という判断ミスが繰り返されてきたが、これが日本で過去20年弱もデフレが長期化した一因である。政府の財政状況が深刻であることの根拠として、メディアを通じて「税収が歳出の半分しかない日本では、増税なしで財政赤字を改善させることは極めて困難」などの意見を見かける。国の一般会計ベースの数字をみると、100兆円弱の予算規模に対して、50兆円前後しか税収がないため、残りは借金で賄っているという状況である。

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