「米政府の意向で円高が止まらない」は真実か 為替相場を説明する前提として適当ではない

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G20会合でも為替市場に関する発言が注目されたルー米財務長官(右)(写真:AP/アフロ)

4月14~15日にワシントンで行われたG20財務大臣・中銀総裁会合では、前回2月の上海G20会合とほぼ同様の、為替レートについての声明文が合意された。具体的には、「過度の変動や無秩序な動きは、経済及び金融の安定に対して悪影響を与えうる」「緊密に協議」「通貨の競争的な切下げを回避することや競争力のために為替レートを目標とはしない」との文言である。

2月から為替市場で円高が続いている中で、G20会合において、円高阻止のための為替介入に対する各当局の姿勢や発言が一部で注目された。特に米当局が、日本などの為替介入に理解を示すかどうか、最近の円高ドル安にどう言及するか、が一部で期待されていたが、米当局などから特段の言及はなかった。

米政府はさらなるドル安を望んでいるのか

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米財務省の姿勢を受けた日本のメディアや一部の市場参加者は「米政府は円高ドル安を望んでいる」と認識、18日以降の円高圧力を強める要因になるとの予想が聞かれた。また、ドル円について「市場は無秩序にはなっていない」とのルー米財務長官の発言が、円高をもたらすとの見通しが散見された。

実際には、G20の声明文は従来どおりで当局の姿勢が変わらないのはそのとおりとしても、最近1、2カ月のドル円の値動きなら、声明文にある「過度な変動」と認識されないのは自然だろう。また、安倍政権になってから為替介入は発動されておらず、先週末の段階で日米双方の当局が為替介入に合意する可能性はほぼゼロで、米国が為替市場に自然体の態度を示したことは当然と筆者は考えた。

米国が日本に対して通貨高を強いているという政治情勢(=米政府の意向で円高が止まらない)、との構図を前提に、為替相場を解説するメディアや市場参加者が多い。約20年前の1990年台半ばに超円高が政治的に演出されたトラウマが、依然残っているのかもしれない。ただ、こうした視点で2016年年初からの円高を説明し、今後を予想するのは適当ではないと筆者は考えている。

一つには、米政府の意向だけでドル円の方向が決まり、円高とデフレのスパイラルを余儀なくされるという状況は、アベノミクス発動以前のように、日本銀行が円高とデフレを許容し、金融緩和を徹底しないとの前提があって成立するからである。さらに、そもそも米国政府が更なるドル安を望んでいるというのも、米国ではFRBが利上げ再開のタイミングをうかがう状況との整合性がとれない。

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