中国で引っ張りだこの日本人俳優が見た現実 現地の映画・ドラマ50作品に出演、16年の軌跡

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日本人役に限らず、幅広い役を演じている(提供:オスカープロモーション)

矢野:中国は、ことわざが多いのですので、友達に聞いたりしながら、いつもネタを作っていましたね。自分の生活のなかの実体験であったこぼれ話を話したりしました。

たとえば、中国に来た当初、大阪にいる家族に手紙を出すために郵便局に行ったときのこと。「『手紙』をください」と言ったら、窓口のおばさんがトイレの方向を指差して「あっちだ、あっちだ」と言う。なんで売ってくれないのかと思ったら、中国で「手紙」はトイレットペーパーの意味なのですね。こうした身近なネタは喜んでもらえました。

野嶋:映画やドラマのつくり方で、中国と日本の違いはありますか?

矢野:役者という立場で言うと、いちばん大事なのはスタッフとのコミュニケーションですね。映画もドラマも台本どおりに演技するのではなく、自分のアイデアを積極的に監督やスタッフに言ったほうが喜ばれ、その意見を取り入れてくれます。日本は撮影の際にはかなりきっちりと筋書きが決まっていますが、中国は臨機応変にやっていく感じです。

現場では「日本人としての意見」を求められる

野嶋:中国人の発想では、撮影前の準備をあまり重視しませんね。

矢野:ざっくりとしたスケジュールはあっても、どんどん変えていく。柔軟といえば、本当に柔軟ですね。ぼくが演じるのは日本人の役が多いですが、現地の理解は表面的な場合も多いので、むしろ実際どんなふうに表現するのか、現場で私から日本人としての意見を探ろうとしていますね。

野嶋:日本の俳優で、中国で日常的に活動している人は、矢野さんのほかに何人ぐらいいますか?

矢野:どうでしょう。数が分からないのですが、けっこういるんじゃないでしょうか。自分が現地に入った2001年ごろには、自分以外に活動している人は一人しかいなかったですね、いまはかなりの数になりました。

北京だけじゃなく、上海にもけっこういますね。何十人もいるでしょう。やはり中国というマーケットが広いこともありますし、確かに軍人の役柄は多いですが、これから飛躍したい若者にとっては、魅力のある場所だと思います。

野嶋:日本での活動のほうが、幅広い活動ができるイメージですか。

矢野:中国で3本映画に出させていただいて、大作と言われる作品もあり、なかにはジャッキーチェンの作品や、中国の古装劇に出させてもらったこともあります。中国の皇帝の皇后の兄の役で、自分には息子がいるが、息子を皇帝にさせるための策略を仕掛ける、という役です。こういう役は、いままで日本人の役者にはあり得なかった。

一方で、今の自分は日本への思いも強くあり、今後は日本でさらに演技の幅も広げて日中両方で活躍していきたいと思っています。

野嶋 剛 ジャーナリスト

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のじま つよし / Tsuyoshi Nojima

1968年生まれ。上智大学新聞学科卒業後、朝日新聞社入社。シンガポール支局長、政治部、台北支局長などを経験し、2016年4月からフリーに。仕事や留学で暮らした中国、香港、台湾、東南アジアを含めた「大中華圏」(グレーターチャイナ)を自由自在に動き回り、書くことをライフワークにしている。著書に『ふたつの故宮博物院』(新潮社)、『銀輪の巨人 GIANT』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『台湾とは何か』(ちくま書房)、『タイワニーズ  故郷喪失者の物語』(小学館)など。2019年4月から大東文化大学特任教授(メディア論)。

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