伊那食品に学ぶ「今の日本に必要な資本主義」 会社の決算なんて、3年に1度で十分だ

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塚越:それは同感ですね。ROEなどというものは、つまるところ株主がいかに自分たちに利益還元させるかを推し量るための指標でしかありません。株式市場は国が豊かになるうえで、とても大事なものですが、今では単なるマネーゲームの場になりました。だから、ROEなんていう指標が注目されるようになるのです。利益の絶対水準ではなく、利益の中身を検討するべきでしょう。

大久保:多くの企業経営者は、ビジネスの拡大を目指して従業員を道具にしてしまいがちです。でも、100年、200年と続いている企業の経営者は、自分のところの業績うんぬんの前に、「お客様に目を向けなさいよ」「お客様にご迷惑をお掛けしないよう、無理な商談はいっさいしなくてもいいのだからね」「ビジネスの規模は小さくても、それをしっかりやりなさいよ」など、とにかく取引先やお客様のことを考えて行動しているように思えます。いたずらに高成長を求めたりせず、社員の幸せ、取引先やお客様の満足を実現させることを第一に考えて、努力しています。そういう経営者がいて初めて、地味でも着実に成長を継続できる企業ができるのでしょうね。

大事なのは、社員のモチベーションを高めること

塚越:私の野心は、経営者が何も言わずとも、社員が勝手にビジネスを動かしていくような会社にすることです。ただ、そういう組織にするためには、強引さ、知恵、戦略を駆使して、急激な成長を続けるような企業ではダメです。そういう企業は社員に無理をさせるし、業績が悪化すればすぐにリストラをして社員を切り捨てるからです。そんな会社は、むしろ諸悪の根源と言ってもよいでしょう。

大事なのは、社員のモチベーションを高めることであり、そのためには社員が「この会社に勤めていれば生活は大丈夫」と思える環境を、経営者がきちっと用意する必要があります。ただ残念ながら、多くの企業経営者にはこの視点がない。自分の任期中の業績ばかり気にしているような経営者は、単なる我利の塊で、いくら上場企業のトップにまで登り詰めたとしても、その座を退いた時には誰の記憶にも残らない、そういう経営者で終わるでしょう。

大久保:おっしゃる通りだと思います。塚越会長はご自身の目線で日々「いい会社」を目指していらっしゃる。これはまさに「社中分配」の考え方に通じる公益資本主義の実践に他なりません。私は、伊那食品工業のような会社が1社でも増えるよう、この理念を伝えていくつもりです。本日はありがとうございました。

大久保 秀夫 フォーバル会長

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おおくぼ ひでお / Hideo Okubo

フォーバル株式会社代表取締役会長。1954年東京都生まれ。国内、外資のふたつの会社を経て、25歳で新日本工販株式会社(現・株式会社フォーバル/東証一部上場)を設立。1988年、当時、日本最短記録で現・ジャスダックに株式を公開。同年、社団法人ニュービジネス協議会「第1回アントレプレナー大賞」を受賞。東京商工会議所特別顧問、公益財団法人CIESF(シーセフ)理事長、一般社団法人公益資本主義推進協議会(PICC)代表理事。「『社長力』を高める8つの法則」(実業之日本社)など著書多数。

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