(第13回)わたしの万能液・その1

山崎光夫


 わたしは手作りしたドクダミ液を毎日、万能液として使っている。小さな会場で講演したあと、出席した人から教えてもらった方法である。愛用してもう七、八年を経過する。主に髭剃りのあとのアフターシェービングローション、湯上がり時のヘアトニックとして使っている。
 それ以外に、肌荒れがあってつける、すり傷につける、打ち身につける、毛虫にかぶれてつける、包丁で切ってつける、蚊に刺されてつける、トゲを抜いてつける、水虫がぶりかえしてきたときにつける、というように、外用薬として何でもかんでも使っている。しかもよく効くのである。
 ドクダミ液はわたしにとって、化粧水であり、皮膚トラブルの治療液である。万能液として愛用して、旅行先にも携帯する。

 ドクダミといえば、春から真夏にかけて野山や庭先、道端に群生する野草である。茎を折って手にしたときのあの独特の毒々しい臭いには鼻が曲がる。あの臭いが好きな人はまずいないだろう。虫が寄りつかないのもうなずける。
 今日では、あのドクドクしいニオイのもとは、「デカノイルアセトアルデヒド」という長たらしい成分と判明しているようだ。「でかいのがいるひどい汗があるど」と覚えると関連して覚えられるかもしれない。濃い青々とした葉にはクロロフィル(葉緑素)も多量に含まれているようだ。

 このドクダミは民間療法では昔から横綱級で、青汁をオデキや湿疹、痔、ニキビ、鼻づまりに使う。また、乾燥させた葉を煎じて飲むと胃腸を整え、肩こり、冷え性、便秘などを治すとして好んで使われてきた。  漢方医学では、薬の材料として使用される。「十薬(じゅうやく)」と呼び、その効果に十種あるといって重視してきた。今ではお茶として体質改善用に使われている。

 わたし自身はドクダミの青汁を使ったり、煎じて飲むのではない。
 わたしの作るドクダミ液は、ドクダミをホワイトリカーに漬けこんで、そのエキスが出たところで、ドクダミを取り除いた液体を外用に使うだけのものである。
 ドクダミの白い花が咲くころ、根を残して茎、葉、花ごと摘み取り、これをよく洗って土やよごれをよく落とす。わたし自身は三、四十本を摘み取る。このときの臭いはものすごい。洗う作業は室内でしないほうが賢明だ。だが、この臭いも三、四時間でおさまる。摘み取ったドクダミを何本かごとに紐で束ねて、三、四日物干し竿に陰干しする。この生乾きのドクダミを大瓶に入れて、1ℓのホワイトリカーを注ぐ。約一カ月置いて、ドクダミを取り出して特製ドクダミ液の出来上がりである。

 ホワイトリカーに漬けこんだドクダミなので、「ドクダミ酒」でもある。少し飲んでみたが口に合わなかった。わたしはもっぱら、外用の万能液として使っているが、「ドクダミ酒」を楽しむのも、これは一興であろう。また、ドクダミの効用として、二、三本をティッシュペーパーに包み冷蔵庫に入れて置くと臭い消しとなる。消臭効果は意外と高い。ドクダミのあのいやな臭いは気にならないから不思議ではある。

 それにしても、ドクダミには摘み取ったときの毒々しい臭いがある。
 きれいなバラには刺があると同様、利用価値の高いドクダミにはいやな臭いがあるのだろう。そう考えている。
 いまや、万能液のドクダミ液は手放せないが、わたしにはさらにもうひとつ万能液がある。これはもっぱら食卓で使う万能液である。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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