ブラジルのサッカークラブ、ボタフォゴに所属するサッカー元日本代表の本田圭佑は、自身が代表取締役CEOを務めるNow Doを通して、オンラインスクールを開設すると発表した。

これまでも本田は、国内外に約80校あるソルティーロ ファミリア サッカースクールのプロデュースや、オーストリア、カンボジアでプロサッカークラブの経営に携わるなど、サッカーを通じて世界中の子どもたちと向き合ってきた。

その一方で、自らKSK ANGEL FUNDを立ち上げスタートアップ企業への投資を行うなど、起業家としての顔も持つ。現役サッカー選手と並行して、さまざまなビジネスを展開する彼が、次に手がけるのは教育改革だという。

生きるために必要な力とは何か?

「中高生向けの教育の本質を再定義する、新しいスクールをつくります」

この一言から始まった7月26日のオンライン発表会では、約1時間にわたって熱弁を振るった。サッカー選手として自分は何ができるのか。貧困問題の解決を目指してサッカースクールをつくったが、目的を果たすことはできなかった。そこで、世の中を変えるためには起業したほうが早いと考え、「誰もが自分たちの夢を追いかけられる世界を創る」ためにNow Doを立ち上げたという。

世界を見渡せば、教育格差は深刻で、本当に大事なことを学べている子どもはごく一部。そんな思いが、誰でもオンラインで、リーズナブルに学ぶことができるサービスを立ち上げる原動力になったようだ。

「生きるために必要な力とは何か? その答えは、時代によって変化します。絶対にこれが必要と言い切れるものはない。大人に教えてもらうことも、大人が教え続けることも大事だけど、未来に必要な能力はこれだと確信が持てる人は少ないですよね。

だから、変化に対応する力こそ、生きるために必要な能力なんです。しかも今は、すごいスピードで時代が変化している。変化に応じて自分で考え、行動する力がいちばん大事だと思ってます。なのに、ものすごく弱い。そういう力を持つ子って少ないですよね。いつも答えが用意されていて、自分で考える機会をトレーニングに入れてもらえてないからです。そこで、自分で考え行動することを、僕らの学校で教えたいと考えてます」

オンラインスクールを手がける理由を熱く語る本田
本田圭佑:サッカー選手。現所属はブラジルリーグのボタフォゴ。2008年A代表デビュー、10年W杯南アフリカでは2ゴールを決め世界の注目を浴びる。11年アジア杯では日本優勝の立役者としてMVPを受賞。14年ACミランに移籍、同年のブラジルW杯でも1ゴール1アシストと活躍。18年のロシアW杯では1ゴール1アシストを挙げベスト16入りに貢献。20年から現所属。ビジネス面では国内外に約80校のサッカースクールを展開。16年には日本人アスリートとして初めて「MITメディアラボの特別研究員」に就任。18年にはサッカーカンボジア代表の実質的監督も務める

そのテーマは経済、お金、国家、軍隊、宗教、さらには家族、恋愛、性教育まで多岐にわたる内容を予定している。オンラインで配信される授業を聞いて、本質的な社会の情報を自分で考え、どう行動すべきかを判断してほしいという。

授業は、月額1ドル(19歳以上は別料金)。「無償にしろという反論もある」と本田は言うが、中高生が自分でお金を出して払える金額に設定したのも、自律して社会や学びと向き合ってほしいという考えからかもしれない。今後は世界で展開することも視野に入れているという。

「学校でしか学べない公教育のすばらしさがあると考える一方で、オンラインのよさは、ボーダーがないこと。生まれた国など関係ない。日本の人口は1億2000万人だけど、世界には70億の人がいる。学校に通いながら受けられるサービスで、無料でコミュニティーにも参加ができるから、仲間を見つけて行動する力を育んでほしい」

世の中の第一線で戦う人たちが先生

子どもたちの先生となるのは、社会で働いているプロフェッショナル。公務員、起業家、投資家、学校の先生、医療従事者など、世の中の第一線で戦う人たちが、どんなふうに世界が変化しているかを話すという。第1回は、中高生向けIT教育プログラムを手がけるライフイズテック代表取締役CEOの水野雄介氏により、プログラミングを学ぶ大切さについて授業が行われた。

現在、Now Doによれば登録数は約800(有料・無料含む 、7月29日時点)。今後は、元プロサッカー選手の嵜本晋輔氏による「スポーツの経験が社会に出てどう役立つのか」に続き、8月2日には本田自らが「サッカーの魅力と誰も言わない真実」と題して授業を行う。

その後も社会活動家の石山アンジュ氏、CA Tech Kids代表取締役社長の上野朝大氏、マクアケ代表取締役社長の中山亮太郎氏など、それぞれのバックグラウンドや仕事内容に応じた講義を公開する予定だ。

「サッカーに正解はないという『格言』がある。また本田が極言を言ってるなと思うかもしれないが、教育にも正解がない。中高生も、親御さんも、教育に携わる人もわかっているはず。教育は言うほど簡単ではない。

でも根本は、生きていくために必要なことを教えるのが教育。どういう人生を歩みたいか? どうなりたいか? 大人が求めるものでないと駄目だから、今は夢のない若者が多く見える。でも、金持ちになりたいとか、女の子にモテたいとか、こうなりたいというのは本人にはあるはず。自分の好きなように人生を生きてほしいから、自分で道を見いだして乗り越えられるようにするために、トレーニング期間が必要なんです」

(写真:〈c〉NowDo株式会社)