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セイラーの行動経済学、異端の学問が大活躍 次のノーベル経済学賞は「フィールド実験」か

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  • 筒井 義郎 甲南大学 経済学部特任教授
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このジレンマを解決するのが、「ナッジ」である。これは「軽いつつき」という意味で、人々を望ましい選択に誘導しようという枠組みである。一方で、個人にはあくまで自分の意思による選択を実行する権利が保障されている。先日見たNHKで「デンマークの老人施設では糖尿病患者でも望めば甘いものが食べられる」と言っていたが、自分の意思はあくまで尊重されるのである。尊厳死を許すのもこうした考えに基づいている。先に述べた「デフォルトの利用」はその具体的な方法である。

『ナッジ』(原題:Nudge: Improving Decisions About Health, Wealth and Happiness)は2008年には書籍として発刊され、日本では『実践 行動経済学』の題がつけられている。ナッジは、行動経済学の知見を社会でどのように使うべきかの基準を明らかにしたと評価されている。

「行動経済学」はまだノーベル賞を取れる

15年間に3件というノーベル賞受賞は、行動経済学が突出して注目されている分野であることを示唆しているが、行動経済学へのノーベル賞授与はまだまだ続くと予想される。

その第1の分野は、行動経済学で明らかになった事実を経済モデルに組み込むという理論的な作業である。これは行動経済学の究極の目的に他ならない。この分野で活躍している学者としてマシュー・ラビンがあげられる。彼は、今年12月の日本の行動経済学会大会で講演する予定である。

第2は脳科学との協同分野である神経経済学であり、スイスのエルンスト・フェールとカリフォルニア工科大学のコリン・キャメラーがその候補に挙げられている。

第3はフィールド実験の分野で、ジョン・リストとウリ・ニージーが著名である。この二人は『その問題、経済学で解決できます』(原題:The Why Axis: Hidden Motives and the Undiscovered Economics of Everyday Life )の著者である。リストは、この夏「ローレンス・クライン賞」を受賞するため大阪大学を訪問した。

経済実験は行動経済学においても重要な実証方法であるが、従来は実験室において行われるものだった。それを現実の場所において実施しようというのが「フィールド実験」であり、大変な費用を必要とするが、開発経済学や教育経済学などで行われ、驚くべき知見を得ている。アメリカでは、その実験成果が政策の設計に用いられるようになってきている。したがって、ノーベル経済学賞も「フィールド実験への授賞」となり、行動経済学の研究者もそれに加わるという形をとるかもしれない。
   

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