ただ、鐙によって乗り手の姿勢が安定し、上半身をより自由に使えるようになったことで、重い武器を扱ったり、強い打撃を加えたりすることは格段に容易になりました。
言い換えれば、騎兵とは、馬さえ用意すれば完成する兵種ではありません。馬、馬具、そして長い訓練がそろって初めて成立する、非常に高度な「技術」だったのです。
近づこうとすると逃げられ、追えば矢が飛んでくる
鐙がまだ普及していなかった時代、その高度な騎乗技術を象徴したのが「パルティアン・ショット」です。
これは、馬で敵から離れるように走りながら、上半身を後ろにひねり、追ってくる相手へ矢を放つ戦法です。
単に振り返って射るだけではありません。退却すると見せかけて敵の陣形を崩し、追撃してきたところを射抜き、場合によっては反転して襲いかかる。
逃走と攻撃が一体になった戦術でした。
文章にすると簡単そうですが、実際にやるとなれば大変です。走る馬の上で姿勢を保ち、進行方向とは逆を向き、狙いを定めて矢を放つ。しかも、敵に追われている最中です。
この技がパルティア人の名とともに歴史に残ったのは、それだけ騎馬で弓を扱うことが難しく、同時に強力だったからでしょう。
歩兵からすれば、近づこうとすると逃げられ、追えば矢が飛んでくる。ようやく追いつけると思った瞬間には、相手が反転して襲いかかってくる。
これほど戦いにくい敵はいません。


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