ただ、共通善に基づく新しい保守主義が基礎とするのは「個人ではなく、家族や共同体」と明確に述べ、そのために労働者寄りの国内産業保護、移民規制の強化、民間セクター労組支援、国による社会的セーフティネットの確保など具体的政策も示している。
また、エリートと大衆の「真の階級融合」となる「混合政体」を創設するという「アリストテレス的な目的」を達成するため、現在起きているポピュリズムの力、すなわち現行のエリートに対する大衆の「激しい政治的抵抗」を利用する「マキアヴェリ的手段」を用いるとも宣言している。
おそらく、著者がかねがね主張しているようにトランプ大統領という存在は「通過点」ないしは「乗り物」にすぎず、トランプ後に新しい政体づくりを始めたいという意味であろう。
19世紀後半イギリスがモデル
著者が目指すような「共通善保守主義」によるエリートと大衆の階級融合による「混合政体」は可能なのだろうか。筆者には、ほぼその目的を達成した実例が本書の中ほどで示されているように思える。
著者が詳述している19世紀後半のイギリス保守党の名宰相ベンジャミン・ディズレーリ(1804〜81年)による「トーリー・デモクラシー」=「一国保守主義」だ。一国(one nation)とは「労働者階級と貴族階級がともに献身」して国民が一つに統合されることを指している。
ディズレーリは貴族階級を代表する保守党の宰相でありながら労働者のための社会政策を次々と打ち出し、貴族階級と労働者階級を一体化させたといわれる。
著者の叙述によれば、ディズレーリは「保守主義という言葉を明確に労働者階級と結びつけていた」。ディズレーリの発言を解釈すると「国家という本流は、源流である労働者階級の価値観によって更新される」。こうした一国保守主義が20世紀に入ってからの英国の福祉国家形成に影響を及ぼしたという。
デニーン教授が提案する、「共通善保守主義」による体制転換を通じてのエリートと大衆による「混合政体」形成は、歴史的に見るとそれほど実行が難しいことではないのかもしれない。


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