イギリスの哲学者バーナード・ウィリアムズは、法的・道徳的にまったく過失がないにもかかわらず子どもを轢いてしまったトラック運転手の心理を「行為者後悔」と呼びました。
周囲から「あなたのせいではない」と慰められても、運転手は「自分の選択と行動によって取り返しのつかない事態(不可逆性)を引き起こしてしまった」という事実から逃れられず、葛藤を抱え続けます。
自分の判断や選択によって起きた取り返しのつかない結果を直視し、後悔という重みとして背負う。それこそが、意思と感情を持つ人間にしかできない営みです。
私はここに、他者の人生や命を左右する「決断を下す人間」に必要な条件を見るのです。
AIの判断にただ従うだけの人は、事故が起きた際に「AIがそう言ったから」と言い訳をする追認者にすぎません。テクノロジーが進化する時代になるほど、それを活用する人間に対して「たとえリスクがあっても、自らの判断で決断できるか」という姿勢が求められるでしょう。
MMIという選抜自体は受験生の多面的な資質を測るものですが、AOエキスパートPROチームがこの予想問題を提示した理由は、これからの医療者やリーダーに最も強く問われる資質が、こうした「不可逆な事態に対する決断の覚悟」だと予測しているからです。
ここで、みなさんの「覚悟」を磨くための非認知スキルトレーニングの問題を出題します。
専門家や政治家、あるいはAIといった「優秀な主体」に判断を任せきりにしたとき、その結果として生じる取り返しのつかない結末を、最終的に引き受けるのはいったい誰でしょうか。
正解を探すのではなく、「自分ならどう関わるか」という主語で考えるようにしてみてください。
地頭力とは「在り方」である
どれほど物事の本質を見抜く力があっても、どれほどゼロから発想を生み出せても、最後に「決断を引き受ける覚悟」がなければ、その力は宙に浮いたままです。
さらに言えば、そもそも人生そのものが、やり直しのきかない「不可逆な連続体」です。
あの会社に入るべきだったか、あの時もっとこうすればよかった……誰もがそう振り返る瞬間を持ちながらも、時間は前にしか進みません。人生は、「あとから元に戻す」ことのできない選択の連続なのです。
私たちはその「戻れない時間」の上に、今日という一日を重ねて生きています。
だからこそ、「地頭力」とは単なる論理的思考や面接のテクニックではありません。不可逆な一瞬一瞬を、逃げずに自分の意志で前に進めるための「人間としての在り方」そのものなのです。


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