我々は、「登山中にクマに襲われた」というと、「滅多に起こらない、とんでもないことが起きてしまった」と思いがちだが、山﨑氏が指摘するように、クマも山にあまた存在するリスクのひとつであり、それがいつ自分の身に降りかかってきても不思議ではない。
クマによる被害を回避するうえで、それを認識することは非常に重要だと思う。
先日、山岳関係の書籍を出版している編集者と話をしたときに、コロナ禍以降は低山の特集を組んだ雑誌の売り上げが伸びたという話を聞いた。
しかし、各地でクマが人里や市街地にまで出没し、低山でもクマのリスクが高いことが知られるようになった今、売り上げはぱったり止まってしまったそうだ。
山の天気サイト「てんきとくらす」が昨年の秋に実施した「クマと登山に関するアンケート」によると、登山者の77%がクマの出没増により「不安で慎重になったり、登山をためらうようになった」と回答した。
具体的な影響としては、「行く予定だった山を変更した」(61.6%)、「安全対策を強化した」(39.9%)、「計画を中止・延期した」(29.1%)といった結果が出た。
今後の課題は「人間を恐れないクマ」
山でクマの被害に遭いたくないならば、クマのいない房総の山か九州以南の山だけに行くか、登山そのものをやめるしかない。
しかし、山でクマに遭遇しないための予防策と、遭遇してしまったときの対処法をしっかり学ぶことによって、リスクを低く抑えることはできる。そのノウハウについては、拙著『低山遭難』で触れた。
ただ、昨今はクマ鈴の音を聞いても、人間の姿を認めても逃げていかずに、登山道周辺に悠然と居座るクマが各地の山に出没している。
昨夏、知床の羅臼山で起きた人身被害事故の加害グマは、かねて「人を避けないヒグマ」と認識されていたというが、このようなクマは知床半島全域で多数確認されているそうだ。
さる7月4日には、大雪山系のトムラウシ山で、登山者4人が登山道上にいたヒグマと遭遇して下山できなくなり、警察ヘリコプターに救助されるという一幕もあった。
人馴れして人間を恐れないクマに、登山者はどう対処していけばいいのか。それが今後のクマ対策の大きな課題となろう。

