この酷暑騒動の経緯と背景には、日本からは想像しにくい、フランスの気候風土と社会事情がある。日本で生まれ育ち、パリとその近郊に25年以上住み続ける筆者の視点からお伝えしよう。
フランスの国土(海外県を除く)は東西南北に約750km、半島の突起がある地形から「六角形」と表現される。西は大西洋、南は地中海、東はアルプス、北はベルギーへと続く平地で、日本の北海道と沖縄ほどではないが、南北で気候に差がある。
地中海側の南フランスでは夏の3カ月に気温30度を超える日が多く、一般世帯の6〜7割にすでに冷房が普及している。一方、パリ圏など北半分では冷房はまだ一般的ではなく、それが全国の普及率を引き下げている。
クーラーがあるのはフランス家庭の2~3割
住宅向けのエネルギーマネジメント企業Hello Wattの調査では、フランスの世帯の冷房普及率は一軒家で28%、マンションや団地など集合住宅で18%(2026年)。
なぜこんなに、冷房普及率が低いのか。フランス北半分の夏は基本的に低湿度で、最高気温が30度近くになっても、日陰にいれば過ごせる気候だからだ。夏の盛りの7〜8月でもパリ近郊は爽やかな気候で、平均の最低気温は16〜18度、最高気温は30度に届かない日が続いてきた。

日中は雨戸を締め切って、室内に日差しを入れず扇風機でやり過ごし、夜は窓を開けて涼風を通せば、冷房なしでも問題なく眠れる。年に数日熱波がやってきても、その間を凌げばまた気温は下がる……そんな地域での暑さは喉元を過ぎれば忘れられるもので、冷房は「年に数日しか使わない贅沢品」に見えるのだ。
実際にこの原稿を書いているのは酷暑明けの1日目、筆者の住むパリ郊外の最高気温は前日より10度下がった26度で、朝の気温は17度だった。「やれやれ」と通常運転に戻るこの感覚は、関東地方の大雪や台風に近いように、埼玉県出身の筆者は感じる。
加えてフランス社会では、気温の高い夏季に長期休暇を取る「バカンス」の文化がある。この国では3歳から18歳までが義務教育で、学年度は9月始まりの7月上旬終わり。7月の大半と8月のほぼ2カ月は夏休みで部活動もない。暑い盛りに児童生徒が登校しないので、冷房は必要ないと判断されてきた(暖房設備はある)。
0〜2歳児が通う保育所では7月に開園しているため冷房の設置が増えているが、8月は休園し、保護者がそれに合わせて年5週間の有給休暇のうち数週間を消化するのが通例になっている。

