そんな苦境のなか、20億円を超えた前述の3作に共通するのは、スター映画ということ(目黒蓮主演の2作と木村拓哉主演の1作)。いずれも人気漫画や小説が原作の劇場版およびドラマシリーズだが、そうした作品性云々よりも、主演の彼らがファンの若い世代を映画館に向かわせていることが、数字に直結している。
ただ、スター映画のヒット規模が格段に拡大しているかというとそうでもない。ほかに若い世代の観客を動かすヒットが生まれないために、相対的に目立っているのが実情だ。
昨今の邦画実写のエンターテインメント大作は、観客を呼べるスターによって企画が作られ、作品内容が決まる。それが安定した興行につながり、業界を支えている。しかし、シネコンがそういう映画ばかりになれば、すでに少なくなっている従来の映画ファンはより離れていくだろう。
昨今の市況におけるキャストの影響力の大きさとともに、邦画実写がスター頼みになることによる業界のジレンマが改めて示された。
ただ、ここ数年は、前述のような企画性によるサプライズヒットがほぼ毎年生まれていた。この上半期はたまたまそれがなかっただけかもしれない。下半期の邦画実写シーンには、そういった作品が出てくることが期待される。
『Michael/マイケル』が急伸、他にも“重要な流れ”が生まれている
映画ジャーナリストの大高宏雄氏は、上半期の興行を以下のように総括する。
「洋画シリーズものの健闘はあったが、邦画実写の話題作が少ない。数字がなかなか伸びない作品が目立ち、ここ数年生まれていたサプライズヒットが減っている。ただ、『プラダを着た悪魔2』『ほどなく、お別れです』『超かぐや姫!』のような当初見込みを大きく覆すヒットが生まれたことが大きなヒントになる。限定公開ながら、すでに興収1億円を超えた『シラート』などミニシアター系の洋画が興行を伸ばす動きもある」
上半期は、洋画のヒットが世間を賑わせたが、興収TOP10を見てわかるように、シリーズ続編のハリウッド大作のヒットが続いたのがその実態だ。いわば、もともとヒットするポテンシャルの高い大作がたまたまこの上半期に多く並んだだけであり、洋画全体が世間の関心をつかむ流れが生まれたわけではない。
ただ、そんななかで気になる動きもある。
6月に公開されたばかりの『Michael/マイケル』は、今年公開実写No.1のヒットスタートを切った。同作の製作スタッフによる前作『ボヘミアン・ラプソディ』(18年/131億円)は、公開週を重ねて尻上がりに数字を大きく伸ばした。本作も下半期にかけての興行に期待がかかる。
また、ミニシアター系でも、スペイン・フランス合作『シラート』が好調な動員を続け、スクリーン数を拡大するスマッシュヒットになっているほか、『サンキュー、チャック』『シンプル・アクシデント 偶然』『オールド・オーク』『ナースコール』など質の高い洋画が粘り強い興行を続けている。
これらは週末映画動員ランキングには入ってこない、中小規模公開の洋画だが、こうしたクオリティの高い作品がじわじわと集客を伸ばしていることに意味がある。
昨今のミニシアター系の洋画には、戦争や紛争に巻き込まれる世界の厳しい現実や社会課題を題材にして、政治と社会に真っ向から向き合うことで、観客に感銘を与える質の高い作品が増えている。そうした映画が広く注目を集めるようになれば、シネコンのエンターテインメント大作を中心にする世間の関心に変化が生まれるかもしれない。
前出の大高氏は「シリーズものや続編など大作の数字だけを追っていれば見落としてしまう事象だが、そういう作品が増えているのが今年の洋画の大きな注目点であり、洋画興行の重要な流れだ」とする。
ここから次につながるような業界の動きを期待したい。
※興行収入は6月28日時点の推定値

