「お客さんを教育したい」
再開発を担った執行部と、市民の買い物行動には、もう一つの隔たりがあった。
理事長は、松坂屋を核テナントに迎えた以上、より高級な商品を充実させるべきだと考えていた。そうしなければ、買い物客は名古屋へ流れてしまうという危機感があったためだ。
一方、同じレオに入居した専門店の経営者は、別の課題を挙げている。高級品を狙いすぎた結果、かえって地元客との距離が開いてしまったという。
そうした中で、佐口隆雄副理事長は同誌のインタビューで、こんな言葉を残している。
「お客さんの満足を得ることだけに追われると、逆に今度は自分のほう(専門店側)が下がって参りますから、お客さんを教育するといういい方はおかしいでしょうけれど、何とかその辺まで持っていきたい」
地元が目指したのは、市民のニーズに合わせることではなく、市民の消費そのものを引き上げることだった。この考え方は、市民の実感とは必ずしも一致していなかった。
取材に応じてくれた岡崎出身の86歳の女性は、「岡崎の人はスーパーが好き。いいものを買うなら松坂屋。だけど、名古屋へ行くこともあった」と振り返る。
一方では市民の消費を変えようとする商店街があり、もう一方では従来の買い物習慣を続ける市民がいた。
このような「売りたいもの」と「買いたいもの」のずれは、本連載でも繰り返し現れている。
例えば、第2回で取り上げた埼玉県春日部市では、地元百貨店が高級品で街の消費水準を引き上げようとした。しかし、実際に市民が求めていたのは高級ブランドではなく、毎日の食卓に並ぶちょっと良い食品だった。
岡崎でも、副理事長が語った「お客さんを教育したい」という発想は、マーケットイン的な発想ではなく、典型的な売る側の都合によるものだったのだ。

