選手の市場価値を示す指標でも、鈴木の評価額はSTVV在籍後に上昇を続け、ドイツのサッカー情報サイト『Transfermarkt』によれば、2025年3月の約1400万ユーロ(約21億円)から2026年5月には約2000万ユーロ(約31億円)に達している(2026年6月29日閲覧時点)。
STVVは選手の価値を見出し、ステップアップの機会を作ったことで、移籍金として大きな収益を得たのだ。一方、鈴木自身も、STVVで出場機会を得て経験を積んだことで、市場価値をさらに高めた。ベルギーの小さなクラブが、今の日本代表の守護神のステップアップの場となったのだ。そして、鈴木だけでなく、多くの選手がSTVVを経由して世界へ羽ばたいているのは、もちろん偶然の出来事ではない。
はじまりは吉祥寺の居酒屋だった
きっかけとなったのは遡ること10年前。立石氏はFC東京のGMとして選手の強化と育成に携わりながら、日本サッカー界の課題を感じていた。
「何人もの選手を欧州に送り出す中で、日本人選手の世界進出は簡単ではないと感じていました。当時は『0円移籍』という言葉があったように、日本の選手が欧州クラブに移籍する際、移籍金がほぼつかないケースが多かったのです。選手の価値を正当に評価されないまま、欧州へ行ってしまう。しかし、欧州のサッカーはフィジカルコンタクトが強く、1対1の攻防が重要となるため、日本人選手は現地のサッカーに慣れる時間が必要です。すぐに結果が出せないと出場機会も得られません」(立石氏)
その課題の解決策として、立石氏には考えがあった。
「日本人選手の出場機会を生み出すために、日本企業が欧州クラブの経営権をもち、日本人選手が起用されやすい環境を作れないか。その結果、プレーの精度が上がればスカウトの目に触れる機会が増え、さらなる成長の機会がやってきて移籍していきます。選手の移籍金で、クラブの経営を成り立たせられるのではないかと考えました」(立石氏)
立石氏はその構想を何社かに持ち掛けたが、なかなか首を縦に振る企業はなかった。
「海外のサッカーチームへの投資が、日本企業にどのようなメリットを生み出すのかを説明するのは難しかったです。特に大手の上場企業となると、経営層の合意を得るのは容易ではありません。面白い構想だと興味を持つ方もいましたが、なかなか話は進みませんでした」(立石氏)
そんな日々が続いていた2016年6月のこと。立石氏は、DMMの事業部長(現在は執行役員)である緒方悠氏を知人から紹介された。実は、緒方氏はアルゼンチンのプロサッカークラブでサッカー選手としてプレーしていた経験をもち、サッカーに対して並々ならぬ思いをもっていた。吉祥寺の居酒屋で、話を聞いた緒方氏は強く興味を引かれた。

