煙台から大連へのフェリー。女性専用室を予約していたのに、私のベッドに中年のおじさんが寝ていた。
空いているところに横になる——中国ではよくある話だが、だったら女性専用室などというチケットの売り方をするなよ。頭に来て、おじさんに「そこ私が予約した席」と告げ、船のスタッフに文句を言いに行った。
するとおじさんもやって来て、スタッフと大声でもめ始めた。聞けば、家族・親戚で船に乗り込んだ彼らは、乗船後にベッドのある部屋を希望し、その時点で私一人しかいなかった6人部屋を案内されたという。
女性専用室におじさんが寝ているのは私には恐怖でしかないが、彼らは彼らで、女性専用室だと説明を受けていなかったらしい。おじさんは、私に冷たい目で見られたことに憤慨し、スタッフに「彼女はどこの国の人間だ」と聞いていた。
イントネーションから私が外国人であることはばれている。
こんなピリピリした場で、自分が日本人と知られたら厄介なことになるかもなあ。尖閣諸島問題の頃のように、韓国人と言って切り抜けようかなと考えていると、その場にいたおじさんの妻が私に直接「どこから来たの?」と聞いてきたので、どうにでもなれと「日本」と答えた。
妻は私の回答には特段の反応を示さず、「干支は?」と次の質問をした。干支?なぜ今それを聞く?
寅年だと答えると、嬉しそうに「あなたたち同い年よ」と私とおじさんに言った。その無邪気な様子に、思わず戦意を喪失させられてしまった(おじさんも)。国を聞いてきたのは何のふりだったのか、いまだにわからない。
その後、夫妻の親戚という22歳の男性がやってきて、「僕は日本のアニメが好きでよく見るんだよ」と言いながら、サクランボをくれた。ここ女性専用室なんですけど。いや、もう何も言うまい。
「最近、日本人は来なくなった」
ここに出てこない人たちも含めて、実際に接した人たちは、今の日中関係について「バチバチやっているのは政府であって、自分には関係ない話」と、ほとんど気にしていなかった。もちろん、もっと地方に行けば違う反応もあるだろうし、高齢者の中には「いつか戦争になる」と本気で心配している人もいると聞く。中国は広い。地域差も世代差も大きい。
むしろ、あちこちで言われて印象に残っているのは、「日本人は珍しい」「最近、日本人は来なくなった」という言葉だった。
中国人の訪日意欲は依然として高い。中国政府の圧力が緩めば、旅行や留学、あるいはビジネスで日本を目指す動きは、それこそ何事もなかったように回復するだろう。一方で、日本人の中国離れは確実に進んでいるように見える。日本政府が渡航自粛を求めているわけではないのに、進んで行こうという日本人は明らかに減っている。その流れはもはや、不可逆的なものかもしれない。

