ただ、ゴルフ中に突然死した方の解剖率はそれほど高くありません。多くの場合、第三者が亡くなるところを目撃しており、死因を推測しやすいことがその理由です。AEDの整備や救命救急体制の確立によって救命率が上がっていることも背景にあります。
それでも時々、仲間と離れたところで倒れていたり、受診歴がなかったりして死因がわからず、解剖になるご遺体があります。坂本慎一さん(45歳男性・仮名)もその1人です。
ボールを探すために仲間から離れたところで突然死
警察によると、坂本さんはフェアウェイから外れたボールを探すために仲間から離れて1人でいたときに倒れたとのことでした。
亡くなるところを誰も見ていない場合、病死か事故死かを調べるだけでなく、殺人の可能性を否定しなければなりません。坂本さんには外傷はありませんでしたが、受診歴もなかったため、死因がわかりませんでした。そのため、私のところで死因を調べることになりました。
検案(外表検査)では、顔面のうっ血*、外頸静脈の怒張*、唇や爪が青紫色に変色するチアノーゼ、まぶたの裏側の溢血点(点状出血)がみられました。いずれも「急死」の所見で、首絞め・首吊りでもみられます。
*外頸静脈の怒張……首に2本ある心臓の血液を戻す外頸静脈に血液がたまり、青く浮き出ている状態
胸とお腹を開いて体内を確認すると、全身の臓器のうっ血が認められました。
解剖では、全臓器を取り出してそれぞれの重さを測り、写真も撮ります。その後、各臓器を解剖用のハサミやメスで切って調べます。
坂本さんはいわゆる肥満体型で、心臓は「心肥大」の状態でした。成人男性の心臓の重さは約300g、重くて400gほどですが、坂本さんの心臓は650gもありました。
私が駆け出しのころは、500g以上の心臓を牛の心臓(ハツ)の大きさになぞらえて「牛心」と呼んでいました。心臓は高血圧や激しいスポーツによって継続的な負荷がかかると心筋が厚く、重くなるのです。
大きくなった心臓はより多くの血液を必要としますが、血管の太さは普通の人とそれほど変わらないため、相対的に血流は低下しがちに。中年になって動脈硬化が進むと、さらに血流が低下し、虚血になりやすくなります。
血液の流れる順番に心臓の各部位を切り開き、弁や心筋も観察します。心筋は通常、焼肉の「牛ハツ」のような赤色です。しかし、坂本さんの心筋は黄色く変色していました。血管が詰まって血流が遮断され、壊死していたのです。
さらに、壊死して弱くなった部分から亀裂が入り、心臓の内側から出血。心臓と心臓を包み込んでいる心膜の間に血液が溜まって心臓を圧迫し、心破裂の状態になっていました。

