多くの市場参加者が知る通り、ドットチャートの見通しは結局、実現に至るケースの方が稀であるし、議長会見で語られる内容も可変的である。政策の予測可能性を引き上げるためのツールのはずが、逆に予測との乖離を作り出し、それがノイズにつながっているのは明らかだろう。
元をただせば、ドットチャートはリーマンショック後のバーナンキ体制下、「当分金利を上げない」というFRBの意図を浸透させる「強力なフォワードガイダンスのツール」として導入された経緯がある。金利が正常化した平時においても惰性で使い続けた場合、その弊害の方が大きいと筆者も常々感じていた。近い将来、廃止される方向で大きな問題はないように思える。
また、年8回、毎回開催されている記者会見にしても、パウエル体制下の19年、年4回だったものを年8回体制へと倍増させたという経緯がある。ドットチャート同様、これによって政策の予測可能性が高まることが企図されたものの、これも目論見通りになっているとは思えない。
「情報を多く与えれば金融市場が効率化される」というのはその情報が確実なものであった時に期待される変化であって、結局は「data dependent」と言わざるを得ない金融政策運営の世界では透明性が逆に作用することもあるのではないか。
日銀・上下双方向の意思決定では円安動かず
こうした欧米の政策運営を横目に日銀は16日、政策金利を1.00%へ0.25%ポイント引き上げることを決定した。利上げは昨年12月以来、半年ぶり、政策金利としては31年ぶりの水準となる。おおむね100%織り込まれていた決定ゆえ、金利・為替市場に動意はない。
声明文では中東情勢の影響で「経済が大きく下振れるリスクは一頃よりも低下している」と明記され、これが利上げ決定の一因であることが示されたほか、「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」として、利上げ局面の持続性が強調されている。
一方、長期国債の購入計画に関しては年度内の既存計画が維持された後、27年4月以降は買い入れ額の減額が停止される方針が確認されている。過去の本欄でも論じたように、「円安抑止には大幅利上げが必要」とも言われる中、金利について引き上げ方向と引き下げ方向の話が混在する意思決定はやはり影響力を持ちづらい。現に、利上げ決定後のドル/円相場は1ドル160円台に定着している。
利上げ打ち止めは近いのか?
今回、見どころの1つとして「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」の枕詞に付けられていた「現在の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると」の部分が削除されていることが注目された。内田日銀副総裁はこの点を問われ、実質金利との距離感を示すより、「金融緩和の度合い全体を評価し、それを説明する方がより適切」と説明しており、あくまでコミュニケーション手法の見直しであるとの認識を示すにとどまっている。
しかし、打ち止め感に対する思惑は今後否応なしに浮上してくるだろう。というのも、今年3月下旬に公表された日銀の論文では自然利子率について「▲0.9%程度〜0.5%程度」と推計されていた。ということは、2%のインフレ率を前提とすれば中立的な政策金利は「1.1%程度〜2.5%程度」だということになり、利上げ後の政策金利(1.00%)はその下限に肉薄していることになる。
もちろん、だからと言って利上げ路線の停止を主張できるような経済・金融環境ではないため、「引き続き政策金利を引き上げ」と釘刺されているわけだが、「現在の実質金利がきわめて低い水準」とも言い切れなくなっているのだとすれば大きな変化だ。順当に行けば、あと2~3回の利上げを経て、打ち止め感を示唆する情報発信が行われる可能性はある。

