一点に集中しすぎると全体が崩れる。気温や湿度で漉き方を変える。夏場は、原料の粘り気がなくなるので、冬場より気を遣う。漉いた直後では、状態がわからない。3、4日乾燥させた後でないと結果がわからないのだ。
「伝統を守る」とはどういうことなのか?
「感覚でしかありません。やり方を教わると、そこが到達点になってしまうと思うんですよね。そこで終わってしまう。それ以上の工夫をしなくなる。だから、父親は私に何も教えなかったんだと思います。父から何も教わらなかったからこそ、今でもずっと工夫をし続けられているんだと思います」
約220年続く、先祖代々受け継がれてきた伝統技法。日本でたった1軒となった手漉和紙工場7代目の上田さんに、伝統を守るとはどういうことか聞いた。
「あまり、伝統にとらわれないほうがいいのかなと思っています。できることをやっていくだけです。目に見てわかりづらいですが、父の作った和紙と私が作った和紙は、違います。同じ環境で、同じ道具で、同じように作っても、その人の個性が出るものなんです。でも、比べるものでもないと考えています」
基本の作り方は変わらないが、時代とともに挑戦を続ける。以前は、国内需要が大半だったが、最近では海外への輸出が売り上げのかなりの割合を占める。
「変わっていかないと生きてはいけないですからね。海外からの日本の手漉和紙に対する需要は非常に高く、ビジネスとしても可能性を感じています」
海外からの熱視線が注がれる日本製の手漉和紙。だが、箔合紙を作れる工房は、日本にたったの1軒しか残っていない。和紙づくりを継ぐ人も、支える人も、そもそも残っているのだろうか──。
後半では、「私の代で最後かもしれない」と語る上田さんに伝統工芸品消滅の危機を聞く。

