本気で、医者になるんだと思っていた。父が喜ぶから、家族が喜ぶから、当然そうするものだと思っていた。それでも、勉強はしなかった。
医学部に届かなかったのは、頭が悪かったからではない。家で勉強しないまま鶴丸に受かるくらいの地頭はあった。ただ彼は、自分にとってそれほど切実ではない目標のために、机に向かい続けることができない人間だったのかもしれない。
大学は4回留年→YouTube界隈で注目を集める
横浜国立大学に入学したのは2017年、22歳の春。物理学はもともと好きな分野だった。教科書を開けば、いまでも「面白いな」と思うそうだ。
だが、それと、卒業単位を取ることは、まったく別だった。
「授業に行かなければならない」
「提出物を出さなければならない」
彼の動作はつねに止まった。中学時代に数学の先生から言われた「藤井は提出物さえ出せれば完璧なのに」という構造が、そのまま大学でも再演された。
結局、彼は2年生のとき4回留年した。
その一方で、コロナ禍の緊急事態宣言中に「誰でもいいから、オンライン対戦しましょう」と声をかけて始まったゲーム『大乱闘スマッシュブラザーズ』の集まりが、いつのまにか横浜国立大学スマブラサークルとして成立。大学スマブラサークル連合からリーグ戦の声が掛かるようになった。
「僕の趣味で始まったやつが、なぜかサークルになって、なんか一丁前になっていたんです」
授業には出席できない。だが人を集めて、面白がる場を作る、ということはできた。
2020年。コロナ禍で大学にも行けず、就職活動もせず、ただ家でスマブラを続ける日々の中で、彼は半ば自虐のような気持ちで自身のYouTubeチャンネル「将棋のできない藤井四段」を立ち上げた。
当時すでに4浪を経て大学2年に在籍したまま留年を重ねており、自分の人生を冗談に変換しなければ精神が持たない、という時期でもあった。

