最初は数百人しか観ていなかったチャンネルが少しずつ伸びはじめたのは、彼が「4浪4留」「八冠・留王」という自虐の肩書を前面に出してからである。
除籍報告動画、簿記3級合格動画、月収3万円・無職30歳の日常動画。自分の人生のみっともない部分をそのまま編集せずに公開する、というスタイルが、同じように受験や進路でつまずいた視聴者に刺さった。
さらに、他の配信者からの出演依頼が舞い込むようになり、チャンネル登録者数37万人の「トマホーク」をはじめ、「未来図チャンネル」「じゅそうけんチャンネル」など、教育系の人気チャンネルへの出演が相次いだ。
締め切りを守れず、大学を中退し、月収3万円の30歳――そのプロフィールが、ネット上で強力なコンテンツになった。
彼をよく知る人に話を聞くと、口を揃えて「人当たりがよく、社交的で、それでいて話も面白く頭のいい人物」だと評する。今回取材していてもそう感じた。
だが、それと同時にとにかく「締め切りを守ることができない」という。遅刻もするし、お願いしていた成果物も時間通りに出せない。
それでも本人はそれを本気で謝ってくるし、逆ギレすることもない。多くの人から愛されるキャラだが、はっきり言って申し訳ないが社会不適合だ。
医者を目指すか、ネットの世界で生きるか
2024年10月、除籍が確定。2025年3月、横浜国立大学を中退した。30歳になっていた。
勉強ができないわけでも、人間ができていないわけでもない。コミュニケーション能力は高く、話していて気持ちのいい人間だ。ただ、締め切りを守ることが、絶望的にできない。
提出物を出せない少年は、宿題を放置して鶴丸の職員室に呼ばれ、医学部受験では家で勉強しないまま4浪し、大学では物理を面白いと思いながら4留した。少年時代に数学の先生から告げられた「藤井は提出物さえ出せれば完璧なのに」という言葉は、その後の人生のすべてを言い当てていた。
頭のいい子の行く先は、研究者でも医者でもない場合がある。家の中に用意された席に座れなかった子どもが、自分の席を、自分で削り出して座る。藤井四段という人物は、その途中経過なのかもしれない。
だが、親からはそうは認識されてはいないそうだ。
「父は、大学を中退した今でも、『今からでも遅くないから、医学部受験を再開して、医者になれ』と言います。30歳になった今でもです。もしそれで医学部に受かっても、医者になる頃には40歳とかだと思うんですけど、『それでも医者になりさえすればなんとかなる』って」
勉強の世界に戻って医者を目指すのか、それともインターネットの世界で生きていくのか。彼は今も、悩んでいる最中だという。

