「こういうことって起こるんだね…。未熟児で、生まれないかも…と覚悟はしていたけど…。こうして生まれてくるのが当たり前で、元気なのが当たり前だと思って、これまで私も生きてきたけど…。当たり前のことが、当たり前じゃないんだよね…。
宿った命の中には、生まれてくることができなかった命もたくさんある…。元気に生まれてきた子犬には、あの四号さんの命の分まで、幸せになってほしい…」
弥玲ちゃんの言うとおりだ。
四号さんの死から、学ばなくちゃならないことはたくさんある。ぼくたち元気に生まれてきた命は、そういった命の分まで幸せにならなくちゃいけないってこと。
それは人間も同じだ。人間がこの世に生まれてきたことで、果たすべき約束はただひとつ!「自分が必ず幸せになる」ってこと。具体的には「預かったぼくたちの命を幸せにする」ってこと。これこそが「生まれた命との約束」なんだ。
四号さんのために準備していたクリーム色の首ひもが、その小さな首に巻かれることはついになかった…。
獣医の診断で明らかになったこと
亡くなった四号さんも含め、8時間にも及ぶ出産を乗り切った杏子は、疲れ切っていた。すべての出産が終わった26日朝、藤木先生は、杏子と二号さんをかかりつけの動物病院に連れていった。二号さんは生まれるとき、胎胞を破ろうとした杏子に誤って左後ろ足の小指をかみちぎられてしまったのだ。
藤木先生は、二号さんに起こった指の事故と、四号さんらしきものを杏子が食べてしまったことを獣医さんに伝えた。まずは、二号さんの指の治療だ。
「かみちぎられた指を縫って元どおりにするのは、難しいですね…」
獣医さんは、二号さんの指を切断することに決めた。これで、二号さんは、左後ろ足の小指が、完全になくなってしまったことになるが、普段の生活には何ら問題はなさそうだ。
獣医さんは切断した後の傷を縫うと、次に杏子のレントゲン撮影にとりかかった。
「うーん…胃の中に…、小さなかみ砕かれた骨が写っていますね…。やっぱり生徒さんが見たのは、未熟児の子犬でしょう。死産だったんですね…。おそらく、最初のレントゲンで見たときからまったく育たず、すでにおなかの中で死んでしまったものと思われます」
やっぱり、藤木先生の言ったとおり、弥玲ちゃんが見たのは四号さんだったんだ…。藤木先生が、杏子と二号さんを連れて、病院から学校に戻ってくると、四号さんへのメッセージが、美濃柴犬研究班の生徒たちの日誌に綴られていた。藤木先生は、生徒さんたちに、杏子の胃の中に四号さんの骨があったことを伝えて、レントゲン写真を生徒さんたちに渡した。
みんな真剣なまなざしで、その写真を見ている。藤木先生は、そのとき思った。
“これも生徒たちにとっては「命」の勉強なのだ…”

