私たちにとって列車は、単なる移動手段ではありません。現場に立つ社員たちは、列車が地域の顔であることを、肌で理解しています。
観光列車にしても同じです。それらは「速く着くため」だけに走っているわけではありません。この地域の風景をどう見てほしいのか。旅の時間を、どんな気持ちで過ごしてほしいのか。そうした問いが、企画やデザイン、サービスの1つひとつに込められているのです。
「うちの沿線は、ええところ」
私が何度も心を打たれたのは、「うちの沿線は、ええところなんですよ」と、胸を張って語る駅係員や車掌たちの姿でした。
それは、会社から言わされているわけではありません。日々その土地に立ち、人の流れを見て、季節の移ろいを感じ、地域とともに働いてきたからこそ、自然と口をついて出る言葉なのだと思います。近鉄にはほこりをもって沿線を語れる社員がたくさんいます。そしてそれを押しつけることなく、静かににじませています。
この企業文化こそが、近鉄の「人間味」であり、長い時間をかけて培われてきた揺るがない強さなのではないでしょうか。近鉄社員の多くは、近鉄と沿線を愛しているのです。
営業キロ数などの数字の大きさは、結果に過ぎません。「日本一の私鉄」と呼ばれるまでに至った背景には、人と地域に向き合い続けてきた、名もない日常の積み重ねが確かに存在しています。
私たちには「鉄道を走らせている」のではなく、「鉄道は地域と一緒に時間を積み重ねてきた」という自負があるのです。


