頰が赤くなりかけた。「チームの成果です。いまこのバンに乗っているみんなのおかげです」
するとシェリルの口調が変わった。「褒め言葉は素直に受け取りなさい」ぴしゃりと言う。「あなた一人の手柄よ。すばらしかったわ」叱られているようにしか聞こえなかった。
「名声とは仮面であり、それはやがて顔を侵食する」
そのあと私たちは、メディア対応と『リーン・イン』のタウンホール形式のイベントをこなした。1日の予定が終わると、デビーたちから飲みに行こうと誘われたが、疲れていたし、妊娠中の体だ。シェリルやご両親を含む人たちと一緒にバンでホテルに戻ることにした。後部シートにできるだけ目立たないように座り、その日の興奮の余韻に浸った。ほかの人たちは、1日のできごとをあれこれ振り返っていた。
ぼんやり聞き流しているうち、子供たちがマクドナルドでお昼を食べたという話題になったとたん、シェリルの声の調子が鋭くなったのがわかった。子供にファストフードを食べさせたことに激怒している。ふだんは“あんなもの”は食べさせないようにしているという。
みなウィンドウの向こう側を流れていく東京の灯りを見つめた。あれは気遣いからのことだったと誰かがそれとなく言った。慣れない土地と慣れない料理に戸惑っている子供たちに、なじみ深いものを食べてほっとしてもらおうとしたのだ。それだけではない。シェリルが以前Facebookに投稿していた写真のこともあった。
それはマクドナルド本社で撮影された写真で、シェリルはチキンマックナゲットとハンバーガーを手に満面の笑みを浮かべている。それを聞いたシェリルは「本当に食べたわけじゃないわよ、それくらいわかるでしょう」と怒鳴った。あんなのは写真向けのポーズにすぎない。マクドナルドのものなんか自分は食べないし、子供にも食べさせたくない。あんな“ジャンク”を食べているところを誰かに見られたらどうするのか。
車内は気まずい沈黙に包まれた。私が後部シートにいることをシェリルが思い出しませんようにと思った。大きなおなかをした体をできるだけ小さくして息をひそめた。
頭のなかで、ジョン・アップダイクの名言が何度も聞こえたーー「名声とは仮面であり、それはやがて顔を侵食する」。その日の成功の輝きは完全に失せ、私はただ悲しくなった。だって、ここにいる誰もがそれぞれ正しいことをしようとした結果なのだ。でも、バンに乗り合わせているこの人たちの善意が、シェリルには見えていない。
写真を額面どおりに受け取り、本物と信じてしまうのだって無理のないことだろう。宣伝用の写真はどれもシェリルが選んだ仮面だなんて、他人にわからなくて当然ではないか。そして誰よりも、仮面に顔を侵食されてしまったシェリルに深い悲しみを感じた。


