加えて、彼女の考える「ちゃんとした恋愛」は、自分に自信が持てない彼女を現時点より高みに上げて、肯定してくれるモノじゃなきゃいけない。同じしんどさを抱えた相手と、ともに歩いていく覚悟は、彼女にはないのだ。
彼女も彼も、顔の見えない世間が作った規範にがんじがらめになってる。
男はこうあるべき、女はこうあるべきってやつだ。だって、そのほうが婚活には有利な気がするもの。好き同士が結ばれることをヨシとしながら、社会的承認を伴わないとバツを付けられる、世間のストライクゾーンに収まろうとする彼女と彼を誰が責められよう。
こんがらがった彼女の心の塊を、瞬時に解きほぐす手立てはない。少しずつ少しずつ、自分で気づいていくしかないだろう。いまはとにかく、疲れた心とカチコチになった体を休めてほしい。
「今日は、お高めのバスソルトを買いなさいよ」
そう彼女に伝えると、不思議な顔をされた。入浴が問題を洗い流すわけではないことは、私もよくわかっている。でも、「ああ、いい香り」とか「あたたかくて気持ちいい」とか、明るい気持ちになる瞬間を作ることは、暴飲暴食よりずっと自分にやさしいよ。
今夜、彼女がバスタブのなかで、訳もわからずメソメソ泣けるといいな。まずはそこから。
なんのために生きているか
「なんのために生きてるのか、もうわかりません」
大好きな人と別れたばかりの彼女が、憔悴しきった顔で絞り出すように言った。ここのところ揉めまくってると聞いていたし、さほど驚きはない。連絡が途絶えがちになったあたりから、彼女も十分覚悟していたはずだ。それでも、悲しくてやりきれなくなるのが失恋ってもんだ。

