何より、ハンタウイルスは未知の病原体ではない。以前から世界各地で散発的な流行を繰り返してきた既知のウイルスで、その感染の仕方や流行パターンについても一定の知見が蓄積されている。
ハンタウイルスという名称は、1950年代の朝鮮戦争に由来する。当時、朝鮮半島に従軍していた国連軍兵士の間で、高熱や出血、腎不全を伴う原因不明の感染症が相次ぎ、「韓国出血熱」と呼ばれていた。
1970年代後半、韓国のウイルス学者リー・ホワンが、患者発生地域近くの漢灘江(ハンタン川)周辺で捕獲した野ネズミから原因ウイルスを分離し、「ハンターンウイルス」と命名した。その後、近縁ウイルス群全体を指す名称として、ハンタウイルスが用いられるようになった。現在では、げっ歯類を自然宿主とするRNAウイルス群として知られている。
ウイルスのタイプは地域によって異なり、アジアや欧州では「腎症候性出血熱」、南北アメリカでは重症肺炎を伴う「ハンタウイルス肺症候群」を引き起こす。前述したように、南米のアンデス型は、人から人への限定的な感染を起こすことが明らかになっている。
日本でも起きていた小規模流行
実は、日本でも過去にハンタウイルス感染症の小規模流行が起きている。
1960〜70年代には大阪・梅田周辺でドブネズミを介した流行が発生し、119人が感染、2人が死亡した。また1970〜80年代にはウイルスに汚染された研究用ラットを介し、全国21〜22カ所の実験施設で約126人が感染、1人が死亡した。
これらは主に腎症候性出血熱であり、現在、南北アメリカや欧州で警戒されているハンタウイルス肺症候群とは病態が異なる。また、実験動物管理や衛生対策の改善により、1999年の感染症法施行以降、国内感染例は報告されていない。
アンデス型による流行の代表例は、2018~19年にアルゼンチン南部で発生した集団感染だ。34人の感染が確認され、11人が死亡した。
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【感染拡大と関連していた行為】
