そのとき政子さんは、何も言えなかった。悲しくて、泣き出してしまいそうで、ただ夫の手を握っていたという。
「あのとき、『私も最高だったよ』って言ってあげたかった。だから今も心の中で謝ってるの。ごめんね、言葉にできなくてって。それだけが心残りかな……」
政子さんはそう言って、静かに下を向いて微笑んだ。
家族と暮らした家で、ひとり暮らし
26年現在、政子さんは家族と暮らした家で、ひとり暮らしをしている。長女家族がよく遊びに来るため、日本食が好きな孫たちのために、いつも食材を買い置きしているという。
取材でお邪魔した際、寝室を見せてもらった。ベッドの横には、夫の写真と白い花が飾られている。窓からは、夫が散歩の途中でよく座っていたというベンチが見えた。
「毎朝、あのベンチを見て、彼のことを思い出してるの」
(後編に続きます)
