ここで、私が資生堂時代に身をもって体験した話をしたい。
今から二十数年前、私は「アスプリール」というスキンケアブランドのマーケティング担当として、パッケージのリニューアルに携わった。
その際、神奈川県内の大手スーパーで、1週間ずつ2種類のパッケージを比較する店頭実験を行った。スキンケアの液体が入ったボトルの上にかぶせる外箱を新しく2種類作り、どちらが売れるかを検証する実験だ。
どちらもデザインは同じで、違いはただ1つ。一方は高級感のあるボトルのイラストが描かれたデザイン、もう一方はケースの一部を透明にして、中のボトルが直接見えるデザインだった。
前者のほうが、高級感があって見栄えもよく見える。コストも大差ない。論理的にはそちらが有利なはずだった。
しかし結果は、完全に予想の逆となった。
ボトルが直接見えるデザインのほうが、明らかによく売れた。各1週間の実験で、明解な差が出たのだ。
「安っぽい透明ケース」が売れた理由
この経験が、私に「パッケージの本質」を教えてくれた。
消費者はスキンケア商品を購入するとき、商品の“素顔”を見たがっている。ボトルが直接見えるデザインならば、ボトルの生のフォルムとともに化粧水のとろみのある質感、透き通った色、光の透過感——そのすべてが直接伝わる。
消費者は「この商品は、自分の肌に合いそうか」を目で確かめてから買うのだ。液体には形がない。だからイラストでボトルを隠してしまうと、その確認ができなくなる。
認知言語学者のレイコフとジョンソンが提唱した「概念メタファー理論」でも、人は形のない抽象的なものを、具体的な物体に例えて理解しようとすることが指摘されている(※3)。消費者がボトルを通じて液体を「モノとして認識」するのは、まさにこの人間の認知の本能によるものだ。
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【パッケージは文字通り「商品の顔」】
