台湾の現在の与党である民進党が高市首相を支持する背景にも、同様の構造がある。すなわち、台湾の国際社会での生存にとって、高市政権が進める安全保障政策が必要であるという認識が存在するからである。本来、社会の多様性を掲げ、性的少数者の権利保障などリベラル政策をとる民進党と高市政権の価値観は相容れない点が多いが、高市氏の中国への対抗姿勢が強いと理解されているため、政治や社会への価値観が異なっても民進党にとっては問題でないのである。
「中国要素」が絡むと他の価値観が二の次になってしまう現象は、この事例に限らない。たとえば、台湾における日本理解を促進するために「安倍晋三研究センター」が有名大学内に設立されたり、自民党よりもさらに排他的な政策を掲げる保守政党や、宗教色の強い政治団体との交流を民進党や当局がやっていたりする。
これらの動きがニュースになるたびに、台湾側は、それを見た日本人がどのように受け止めるのかという点に、あまりにも無頓着であると言わざるをえない。民進党や台湾当局の姿勢からは「台湾を応援している」という言葉が、すべてを正当化するマジックワードになっているように見える。
筆者は26年3月に台湾研修旅行を行う学生の引率をしていた。その時に訪問した政府機関の関係者に1人の学生が「高市政権の政策と、台湾が重要視しているリベラルな価値観は合わないように感じるが、その点をどう考えるのか」と質問した。これに対して、その政府関係者は「日本には日本の伝統的価値観があると認識している。台湾はそれを日本の文化的な価値観として尊重している」と答えた。
当然ながら、その回答にその場にいた学生も筆者も納得することはできず、むしろ唖然とした。しかし同時に、その説明から、現在の台湾政府が日本をいかに理解し、あるいは生じている「価値観の矛盾」をどう飲み込み納得させているのかもわかった。
日本でも台湾情勢の背景への理解が不十分
ここまで台湾側の問題点を述べてきたが、近年日本においても台湾情勢の緊迫化に伴い、「台湾有事」や中台関係をめぐる議論が急速に増え、まさに「台湾情報の大衆化」が進行している。ワイドショーやSNS、YouTubeなどにおいて台湾が頻繁に取り上げられるようになった一方で、その多くは台湾社会の十分な歴史的・政治的背景について十分な理解を伴わないまま議論されている。
筆者をはじめとして台湾を長年研究している研究者であっても台湾・中国関連の情報を扱う際には、その複雑な背景や様々な立場の人たちがいることなどから、かなり慎重に精査を行って研究を行っている。だからこそ、出所不明のネット情報に安易に飛びつかず、学術的成果やきちんとした取材に基づいて出版された書籍や、自分が信頼できると判断した研究者の情報を参考にしてほしいと願っている。
以上の問題は台湾側に限らず、日本側の台湾理解のあり方とも相互に連動している。両者の間で低解像度な認識が循環的に再生産されている点にこそ、本質的な問題がある。
