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自衛隊員の自民党大会「私人参加」問題の本質/「国歌だから」では済まない自衛隊の政治利用はますますエスカレートする

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自民党大会で行われた国歌斉唱の様子(写真:時事)
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これを許せば、謝礼さえ貰わなければ、民間企業のCMに「私人」として制服着用で出演できることになるだろう。さらに問題なのは、組織的な関与も可能となることだ。

例えば次は自民党大会で、中央音楽隊の隊長が部下に命じて音楽隊全員が「有給休暇」をとって「陸自中央音楽隊です」と紹介されて演奏することも可能だ。

自衛隊にはこんな不祥事もあった。2020年に、海上自衛隊の森田哲哉1佐が女性向けデリバリーヘルス(派遣型風俗店)を約10年間、実質的に営業したことが発覚して懲戒免職処分を受けた。森田1佐は妻名義で営業届け出を行っており、妻名義なら兼業に当たらないと思ったと述べている。また彼はこれを社会事業だと主張していたようだ。

そうであればこれも「私人」として「役務提供」だと主張でき、懲戒処分はおかしいのではないか、ということになる。今回の件はこのようなグレーゾーンを拡大させることにならないか。

順法意識も低い自衛隊

かつては自衛隊では、自衛隊出身者の天下り先である生保2社の掛け捨て保険に隊員らが事実上、強制加入させられていた。無論、保険加入は任意だが、入らないと連隊長から呼び出されて「何で入らないのだ?」と圧力をかけられていた。

上官から圧力をかけられれば、末端の隊員は拒否できない。事実上の強制だ。こういう不当な圧力をかけることは、実は自衛隊では少なくない。

自衛隊内部の一定の政治思想を持った集団が、権力をかさに隊員に「私人としての協力を求める」ことがないといえようか。例えば反政府デモに対して、自衛官が集団で制服あるいは戦闘服を着て徒党を組んで「私人」として威圧することも可能だろう。

だが一方で、防衛省は民間団体への利益供与をやめた事案がある。筆者が河野太郎氏が防衛相時代(在任2019~20年)に会見で「防衛省は防衛記者クラブにコピー取りやお茶くみ用に2名の職員を当てている。記者クラブは一民間任意団体であり、これに役務を提供するのは利益供与であり問題ではないか」と河野氏に質問した。

これに応えるかたちでその後、この2名の役務提供はなくなった。防衛省がまずいと判断したことを、隊員が「私人」だから許されるのだろうか。

自衛隊の順法意識は低い。これは自衛隊を縛る法令は少なくないので、法律を遵守すると活動できないことがあるからだ。

例えばオウム真理教への強制捜査時は、陸自の地上部隊や攻撃ヘリまで不足の事態に備えて「演習」名目で準備していた。オウム側が武装して警察では対処できない可能性があったからだ。これは脱法行為で、部隊長は腹を切る覚悟だったが、緊急時だからOKと問題にならなかった。

このような自衛隊が持つ「グレーゾーン」を、政治も自衛隊も問題視していない。これを放置すれば次はもう少しと徐々にモラルハザードが起こり、自民党と自衛隊の関係はナチス政府と武装親衛隊のような関係になってしまうといっても過言ではない。

また、今回の教訓では自衛隊や防衛省、隊員の政治的な中立を求める法律はあるが、政治の側の自衛隊の私的利用を制限する法令が存在しないことだ。得てして自衛隊は政治家から言われると「できません」とは言わない文化がある。

例えば災害派遣で、1000名で十分に足りる派遣を政治家が「3000名を出せ」と要求することがある。「3000人も俺が出させた」と選挙民にアピールできるからだ。これもまた自衛隊の政治利用だが、政治家にその意識が低い。今回の件を奇貨として政治家に対する自衛隊の利用を制限する法令が文民統制の観点からも必要だ。

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