ところがSNSでは、この抑制機能が大幅に弱まる。匿名性、反撃リスクの低さ、そして「共感した」ボタンによる承認の即時フィードバック——この3つが重なることで、対面では決して口に出さないような指摘がコメント欄に溢れる。
さらにSNS特有の「集団極性化」も働く。同じ意見のコメントが並んでいると「この意見は正しい」という確信が強まり、より鮮明な表現へとエスカレートしやすくなる。
永瀬廉のマナー違反を指摘するコメントが殺到したのは、永瀬を嫌いな人が多いからではない。「黒ネクタイ=マナー違反」という社会規範が存在し、SNSがその制裁衝動の増幅器として機能したからだ。
「指摘したい」という衝動は、悪意ではないが…
最後に、問いかけたい。
あなたはSNSで、他人の見た目やマナーについてコメントしたこと、あるいはしそうになったことがあるだろうか。
「指摘したい」という衝動は、悪意から来るものではないことが多い。それは人間の脳が何万年もかけて育んだ、集団の秩序を守るための本能的な反応だ。しかしその衝動がSNSという増幅器を通して1人の人物に向かうとき、それは「社会的制裁」の圧力となる。
「なぜ自分はこのコメントを書こうとしているのか」。その一瞬の問いかけが、SNSの“見た目監視文化”を少しずつ変えていくかもしれない。
※1:Todorov, A., C. Y. Olivola, R. Dotsch & P. Mende-Siedlecki (2015) Social attributions from faces: Determinants, consequences, accuracy, and functional significance, Annual Review of Psychology, 66, 519–545.
※2:Treisman, A. M. & G. Gelade (1980) A feature-integration theory of attention, Cognitive Psychology, 12(1), 97–136.
※3:Haidt, J. (2001) The emotional dog and its rational tail: A social intuitionist approach to moral judgment, Psychological Review, 108(4), 814–834.
※4:Horton, D. & R. R. Wohl (1956) Mass communication and para-social interaction: Observations on intimacy at a distance, Psychiatry, 19(3), 215–229.
※5:Crockett, M. J. (2017) Moral outrage in the digital age, Nature Human Behaviour, 1(11), 769–771.
