次に、「指摘したくなる衝動」の正体を見てみよう。
社会心理学者のハイト氏は、人間の道徳感情を分析した研究で、社会規範の違反を目にしたとき、私たちの脳は自動的に「嫌悪」と「制裁衝動」を発動させることを示した(※3)。
これは人間の進化において、集団生活を営むうえで適応していった機能だ。集団のルールを破る者をそのままにしておくと、秩序が崩壊する。だから人間は「規範逸脱者を見つけ、正したくなる」回路を発達させた。
結婚式の黒ネクタイは、この制裁回路のスイッチを入れやすい。「めでたい場に弔事の色を持ち込む」という視覚的な逸脱は、「違反」として瞬時に処理される。
ただし興味深いのは、共感を集めていたコメントの表現だ。
《親友の結婚式というプライベートな場において……疑問が残りますし……無理はないように感じます》と、非常に控えめで留保の多い書きぶりになっている。制裁衝動は確かにある。しかしそれが永瀬に直接向かうことへの、何らかのブレーキが働いている。
そのブレーキの正体が、次の「パラソーシャル関係」だ。
なぜ批判は「周囲」へ向かったのか
社会学者のホートン氏とウォール氏は1956年、ファンがメディアを通じて芸能人と「一方的な親友関係の幻想」を築くことを「パラソーシャル関係」と名付けた(※4)。
実際には会ったことも話したこともないのに、脳はこの関係をリアルな人間関係と同じように処理する。
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【本人への直接批判を回避させる方向に働いた】
