冒頭の会議室でのやりとりに話を戻そう。禁煙マークをおぼろげに、というオーダーは「実車がそうなっているため」と山田氏が話す。このアクリルスタンドは長年、特急「ひだ」・「南紀」で活躍してきたキハ85系の引退に合わせて発売した商品で、ファンの多い車両ということも相まってベストセラーとなった。
ファンの多さはおのずと開発にかかるプレッシャーも大きくなる。「数多くあるキハ85系の中からどの編成を製品化するのかを決めて、その編成の特徴、たとえば行き先表示機の種類や車体につけられたアンテナの数、位置などを可能な限り落とし込む」。
大量に製造される鉄道車両は基本的な構造は同じであるものの、製造時期や工場により細部に差異が生まれる。ここを徹底的に追求するのが山田氏にとってはもはや当たり前の工程だ。新入社員時代、自身も新幹線パーサーとして車内でワゴンを押した経験を持つ。
「一般の方とは比べものにならないほど高頻度で新幹線に乗っていたため、車両ごとの細かな仕様の違いに気づくことができた」と当時を振り返る。JR東海本体に出向し、車両基地などで仕事したことも今の業務に欠かせない経験だ。
ビジネスパートナーも”苦笑”
細部をグッズに落とし込んでいくうえで「大切なのはエビデンス。過去に撮影された写真や鉄道雑誌を研究し、“こうなっていた”と明確に判明させます」。“こうであろう”という推測では企画を進めない。先の禁煙マークも「最初期に製造された編成だけこう見えたから」という確固たる調査結果によるもので製品に反映した。
実際にグッズの制作を担当するのは鉄道グッズなどを数多く手がけてきたビジネスパートナーの立誠社だ。同社の担当者も「他の鉄道事業者のグッズも製造していますが、山田さんのこだわりは随一」と思わず山田氏に苦笑する。
しかし、「それが弊社の技術力の底上げにもつながった」とのことで、現在では山田氏と二人三脚で徹底的な作り込みに時間を費やす。なお、「例の禁煙マークは製品上の大きさがあまりに小さすぎて、正直認識はできない大きさ。でも作り込むことに意味があった」と両者は当然のように口をそろえてる。
「いつもそばに鉄道を感じてもらえ、使っていただけるグッズを作りたい。いつも乗っていた、好きだった地元の列車、駅など、購入してくれたお客さまがグッズを通して人生やストーリーを描けるグッズを目指す」と話す山田氏。これからも「そこまでするか」という、斬新で攻めたグッズを作り続ける。
