取材後日、筆者と編集者は特別に許可をもらい、トンネル内部を訪れた。
旧生駒トンネルは、東大阪市にある近鉄奈良線の石切駅の近くの住宅街にある。傾斜の急な坂道を登ると、生駒山の前に、頑丈なフェンスで覆われた鉄扉が見えてくる。
その先にあるのが、旧生駒トンネルだ。
車でトンネル内までたどり着くと、点々と蛍光灯が灯っており、完全な暗闇ではない。けれど、ぽつんと、天井から水の滴る音が聞こえるとドキリとした。生駒山の地水が滲み出て、水漏れしているのだ。湿った空気が顔周りを包んだ。
トンネルの壁面に目をやると、オレンジ色のレンガが見えた。このレンガの積み方は、今ではめずらしい手法だという。
「レンガをクロスさせて積んでいく“イギリス積み”という手法が採用されています。当時としてはかなり頑丈な構造です」と、案内してくれたアド近鉄の中室淳二さん。
この堅牢な造りにより、旧生駒トンネルは崩れることなく当時の姿を保ち続けている。2009年には経済産業省の「近代化産業遺産」に認定され、開通100年イベントも催された。
「そんなトンネルがあるんですね」動き出した広告代理店
とはいえ、なにもないトンネルである。再利用プロジェクトはどのように生まれ、どう進んでいったのだろうか。
当時、わずか2人のプロジェクトメンバーの1人だった音川さんは、当初は建設時から廃止されるまでの歴史はおろか、トンネルの存在すら知らなかったという。
「そもそも僕らも、使われてないトンネルがあるということ自体を知らなかったんです。上司から聞かされて、『そんなところもあるんですね』というのが第一印象でした」
しかし2人はその背景を調べるにつれ、ただの遊休資産ではないと気づく。
「トンネルを掘ること自体も、100年前は大きなチャレンジだったそうです。そうしてできたものが今ネガティブなイメージで見られている。それをプラスのほうに変え、地域の活性化につなげる取り組みができたらと思ったんです」(音川さん)
旧生駒トンネルを、60年の時を経て活用する――。この再利用プロジェクトを、管理する近畿日本鉄道ではなく、グループ会社である広告代理店が取り組んでいることがおもしろい。
地元酒造のワインや日本酒をトンネル内で熟成する現在までに、いったい、どんなドラマがあったのか。
後編では広告会社が、トンネルに新たな価値を生み出した道のりを紹介する。
