プーチンは「戦勝」を国民に誇示できる状況が実現できるまで侵攻を継続する構えを崩していない。しかし、こうした戦況を反映して、もはや戦勝を信じる国民は極めて少数派だと著者はみている。
事実、ロシア社会では勝利の「予感」は霧消している。かつてクレムリンの指示を受けてテレビで過激で好戦的な宣伝文句を連日並べてきた、クレムリンお抱えのプロパガンダ用ジャーナリストたちの発言も元気がなくなっている。
ある著名な女性ジャーナリストは最近、視聴者にこう語り掛けた。「北方戦争だって、ロシアが勝つまでに20年もかかったのよ」。
北方戦争とはピョートル1世がスウェーデンを破り、ロシア帝国を成立させた戦争。1700年から1721年まで続いた。ウクライナ侵攻は5年目に入ったが、北方戦争に比較すれば、長いと思うべきでないと国民に言いたかったのだろう。だが、その語り口に熱っぽさは感じられなかった。クレムリンが早期の勝利を事実上断念していることを物語る発言だろう。
ここにきて、政権派のある有力な軍事ブロガーからは、一転して早くウクライナと交渉して、戦争を終結させるべきとの声も出始めた。先述したバルト海の石油積み出し港へのミサイル攻撃を引き合いに出して、欧州と組んだウクライナは戦争継続でロシアを完全に疲弊させることを狙っていると指摘している。
そして、これを回避するため、今のうちに自分たちの条件で戦争を終結させるべきと主張した。この主張のベースになっているのは、軍事力でウクライナと欧州に対抗するのは無理との認識だ。
そんな中、クレムリンはこの3月、モスクワなど一部都市部でロシア版LINEとも言える通信アプリ「テレグラム」を事実上つながらないようにする措置を行った。政府の公式説明は、このアプリがウクライナによるドローン攻撃に利用されるおそれがあるというものだった。政府はテレグラムの代替として、官製アプリ「マックス」への移行を呼び掛けている。
世論反発で国内弾圧に軸を移し始めたプーチン
しかし、これはあくまで建前の理由だ。実際には、今後クレムリンがモスクワなど大都市部で軍への動員拡大に踏み切る事態に備えて、反対運動の芽を封じ込めておくことが真の狙いだろう。
すでにクレムリンは大学生を動員する計画を始めている。反対運動がテレグラムを通じて広がる事態を抑え込むため、事前にモバイルネットをいつでも完全に遮断できるよう態勢を整えたと言える。
このテレグラム遮断は2年前から治安機関が密かにクレムリンに提案し、プーチンがようやく同意したと言われる。
これは何を意味するのか。筆者は、プーチン統治の今後の一層の強権化を暗示しているとみる。
上記のように、侵攻の難航を受け、戦争継続反対の声が広がる可能性が出ている。これにどう対応するのか。恐らくプーチンはこう考えているのだろう。侵攻継続支持の世論を、先述した戦争プロパガンダで維持することはもはや期待できない。これからは宣伝による感化ではなく、反戦運動が起きたら、力で抑え込むという弾圧強化戦略に切り替える——。
困難に直面したら、選択肢の中から、常に最も強硬な策を選ぶといわれるプーチンらしい判断と言える。
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