SNS人気の裏で…「コツメカワウソ」の知られざる最期――解剖した飼育個体ほぼ100%に見られた"自然界にない亡くなり方"

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動物の死から学び、その学びを後の動物の飼育に生かしてほしい――そんな思いで、日々病理解剖を行い、遺体からできるだけ多くの情報を引き出そうとしているぼくにとって、依頼主のそうした学びの姿勢は、何よりうれしいものです。

現在、地球上には13種類のカワウソが生息していますが、コツメカワウソを含む実に7種が絶滅危惧種です。開発による生息環境の破壊に加え、特にコツメカワウソでは、ペット需要からくる密猟・密輸が個体数の減少に拍車をかけました。

2019年には、ワシントン条約によってコツメカワウソの商業目的での国際取引が禁止され、ネット上でペットとして飼われている個体を見る機会はそれ以前より少なくなったように感じます。

しかし、いまだに「国内ブリード個体」として売られていることがあるようです。動物園や水族館ですら、繁殖生理の解明や人工繁殖に苦戦している絶滅危惧種を、いったいどうやって繁殖させているのか……はなはだ疑問です。

飼育の「ブラックボックス化」

一般家庭でペットとして飼われている個体が、どのような環境で飼育され、どれくらいの長さを生き、どのように死んでいるのかは、よくわかりません。

ほかの動物であれば、個人の方から飼育に関する相談や病理解剖の依頼が一定数あるのですが、不思議なことにそれがほとんどないのです。ペットとしてのコツメカワウソの実態はブラックボックス化しており、ぼくはかねて「長く生きていないのではないか」と危惧しています。

そもそもコツメカワウソは、水辺で群れをつくって暮らす動物です。排泄物は多く、肛門の近くにある臭腺からは、強烈な臭いを放ちます。野生では甲殻類や貝類、魚などを食べているため顎の力が強く、人が噛まれれば大ケガにつながります。

また、群れで生活する動物だけに、単独飼育は向きません。そして、先に述べたように、動物園のような専門施設で健康管理を徹底していても、腎結石を十分に防げません。

かわいいからという安直な理由でもって、一般家庭で気軽に飼えるような動物ではないのです。

かつては日本にも、ニホンカワウソが広く生息していました。しかし、すでに絶滅してしまっただろうといわれています。

だからこそ、動物園や水族館でコツメカワウソを見るときは、単に「カワイイ!」で終わらせるのではなく、生息地では個体数が減少しており、絶滅に瀕した動物であるという存在の重みにも、思いを巡らせていただければと思います。

中村 進一 獣医師、獣医病理学専門家

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なかむらしんいち / Shinichi Nakamura

1982年生まれ。大阪府出身。岡山理科大学獣医学部獣医学科講師。獣医師、博士(獣医学)、獣医病理学専門家、毒性病理学専門家。麻布大学獣医学部卒業、同大学院博士課程修了。京都市役所、株式会社栄養・病理学研究所を経て、2022年4月より現職。イカやヒトデからアフリカゾウまで、依頼があればどんな動物でも病理解剖、病理診断している。著書に『獣医病理学者が語る 動物のからだと病気』(緑書房,2022)。

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大谷 智通 サイエンスライター、書籍編集者

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おおたに ともみち / Tomomichi Ohtani

1982年生まれ。兵庫県出身。東京大学農学部卒業。同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。同博士課程中退。出版社勤務を経て2015年2月にスタジオ大四畳半を設立し、現在に至る。農学・生命科学・理科教育・食などの分野の難解な事柄をわかりやすく伝えるサイエンスライターとして活動。主に書籍の企画・執筆・編集を行っている。著書に『増補版寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)、『ウシのげっぷを退治しろ』(旬報社)など。

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