顔を出し、声を枯らしてあらがった福島原発事故の自主避難者たち。初心を貫いた誇りと、今も続く心の葛藤。それぞれの15年と今

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磯貝さんは2度にわたり野党系で県議選に立候補したが、いずれも落選した。選挙区は新潟市内でも周縁の農村部で、有権者の地元意識は強い。「よそ者」がいくら地元愛を訴えても、「自主避難者」の烙印はついて回り、なかなか受け入れてもらえないと感じた。 

「ここを『地元』にして生きていくために、『自主避難者』の立場を捨てなければいけない葛藤があったんですよね。そもそも避難者なのにね。自分が成功するためのワンチャンスぐらいの感覚にはなれなかったんです」

その時、磯貝さんとは対照的に、議員に当選した被災者や支援者の女性たちの姿が私の脳裏にふと思い浮かんだ。被曝問題を訴えた「一点突破」の人もいれば、あえて原発に触れなかった人もいる。遠回しに話題を振ると、磯貝さんは心の奥に秘めていた複雑な感情を口にした。

闘ったことに誇りを感じる、と磯貝さん=2026年2月14日(写真:筆者撮影)

「選挙に落ちた後、なんで私はこんなに毎日活動しているのに、(議員に)なれないんだろう、当選した人とどこが違うんだろうって毎日考えていたんです。でも、結局は向いていなかったんだって思うんです。議会が終わったら辞職してもいいぐらいの覚悟だったけど、当選してみんなの代表になったら、発言を変えざるをえなかったでしょう。私はそこまで変われないし、変わらなくていいんだって」

娘に受け継がれる反骨精神

みなし仮設住宅の供与打ち切りに合わせる形で、夫が1人で住み続けていた福島県郡山市内の自宅を売却し、一家は新潟で合流した。そして2人の娘はすでに巣立ち、東京で自ら選んだ道を歩み始めた。

磯貝さんは県議選で落選した後、新潟県内選出の国会議員事務所で働いてきた。反対も虚しく原発が再稼働したことに忸怩たる思いは残るものの、一緒に暮らす夫は「今は家もないから、原発事故が起きたらソッコー逃げようぜ」と言ってくれる。15年経って考え方が一致したようで、とても心強い。あとは穏やかな生活が待っているはずなのに、最近考え込むことが増えたという。

「『政治はもういいかな』って思ったとき、ここに住み続けなければいけないわけじゃないと気づきました。でも、他に住みたいところも思いつかないんです。うちらって行くところがないんだなって」

磯貝さんには最近、感極まる出来事があった。東京で美容師をしている長女の身体にタトゥーが入っているのを見つけた。「何でこんなものを……」とやりきれなさがこみ上げたが、彫られていた英語の文字を判読して息をのんだ。

「NO NUKES」

娘が自分に黙ってタトゥーを入れたことはもちろん悲しい。でも、傷だらけになりながら闘い続けた自分を受け止めてくれていたのがうれしかった。

「知ってしまったのに黙っていることは自分に嘘をつくことになりますよね。私は少なくとも子どもたちの将来に責任を果たしたんだ、って胸を張れますよね」

日野 行介 調査報道記者・作家

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ひの こうすけ / Kousuke Hino

1975年生まれ。元毎日新聞記者。

社会部や特別報道部で福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の実相を暴く調査報道に従事。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)、『調査報道記者 国策の闇を暴く仕事』(明石書店)、『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書) 、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)、『双葉町 不屈の将 井戸川克隆』(平凡社)など著書多数。新著に『原発避難計画の虚構』(朝日新聞出版)

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