関西でおなじみ「アラ!」の会社が貫く「ブレない」経営哲学《小さな弁当店も老舗も原料の未来も》「大切なもの」を守り抜く
統合前、田中社長は野村佃煮の全従業員50人一人ひとりと向き合い、不安や仕事への思いに耳を傾けた。その場では、ブンセンが大切にしてきた考え方についても、自らの言葉で伝えた。
「私のことも『社長』ではなく『智樹さん』と名前で呼んでくれるようになりました。表情も明るくなりましたね」(田中社長)
「会社を引き継ぐ」ことは、設備や技術だけでなく「人の営みを引き継ぐ」ことでもある。それはブンセンにとって、ごく自然な流れだった。
そしてこの価値観は事業承継に限ったものではなく、すでに自社を支える原料にも向けられていた。
『アラ!』を作れなくなるという危機意識
野村佃煮のM&Aは、突発的な判断ではない。遡ること2017年から、ブンセンは看板商品「アラ!」の根幹を支える原料そのものの課題に、向き合い始めていた。
農林水産省「海面漁業生産統計調査」によると、原料であるあおさのり(ヒトエグサ)の生産量は、1980年代から90年代のピークを境に減少傾向が続いている。海水温の変化や漁業従事者の減少などを背景に、今後も安定供給が難しいのが現状だ。
「このままでは、将来『アラ!』を安定して作れなくなるかもしれないという危機感がありました」(田中社長)
既存の生産者からの調達は続けながらも、生産減少が進めば価格高騰や供給不安は避けられない。食品メーカーとして、供給そのものにどう関わればいいのか、課題を認識しつつも、答えが出ない日々が続いていた。
転機は2017年。出張に同行していた営業担当者から、朝に見たというNHKニュースを伝えられた。
「あおさのりの陸上養殖技術が、世界で初めて確立されたそうですよ…!」
田中社長はすぐに調べた。技術を確立したのは、徳島文理大学薬学部の山本博文教授だった。
従来、あおさのりの養殖は海面で行われ、新規参入には漁業権の壁がある。一方、陸上養殖は水温や栄養塩などの環境を制御できるため、安定供給と品質向上の可能性を持つ。ただし、それは研究段階の技術に過ぎず、産業として成立させるには多くの課題があった。
「このニュースを知ったのは、まさに運命でした。まずは話を聞きたいと、すぐに面会を申し込みました」





















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