俵万智が語る「嫌悪感あった『ラップ』に惹かれた」理由 和歌との意外な"共通点" 子どもがラップに興味を持ったのは「親子の言葉遊び」から…?

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さて、息子がネットで見ているラップバトルの様子を、私もちょいちょい覗き見させてもらうのだが、はじめは嫌悪感のほうが強かったように思う。

バトルであるから仕方ないのかもしれないが、即興で交互にラップをしてゆく中で、相手をディスる(貶める)場面があまりに多い。基本、ものごとを肯定的に見たいと思っている自分にとって、そういう方向で言葉をつかうのは、とても空しくもったいないと感じた。

「あんたがもしラッパーになるんなら、絶対にディスらないで、相手をリスペクトして褒めて褒めて褒めまくるっていう新しい人になってほしいわ」と割と本気で息子に言っていた。

映画「8 Mile」を観て考えたこと

ただ、もう少しラップ(を含むヒップホップの文化)を知ると、ディスりも単なる罵りあいではないとわかる。アメリカのラッパー、エミネムの半生を描いた映画「8 Mile」を親子で観たが、言葉というのは、持たざる者が生きるための最後の武器なのだ。直接的な暴力に比べたら言葉のバトルというのは、非常に平和的なものだと感じられる。

川原先生も「ラップというのは怖いお兄ちゃんたちが喧嘩している……というイメージを払拭したい」と考えておられ、「ラップは元来、アメリカのギャングたちの間で抗争が勃発した際、殺し合いの代わりにダンスや音楽で勝ち負けを決める過程で生まれたものです」ということを繰り返し言っておられる。

よくよく考えたら、手を出す喧嘩ではなく、口げんかで決めるって、素晴らしい発想だ。

2024年も新年早々、息子は「すごいメンバーが揃う!」と大興奮して豊洲ピットに出かけていった。私も行ってみたかったのだが、さすがに数時間立ちっぱなしの会場はキツイので、オンラインで生配信を見ることにした。

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「KING OF KINGS 2023 GRAND CHAMPIONSHIP FINAL」という催しだ。全国の予選・大会を勝ち残ってきた16名の猛者が、聴衆の前でラップバトルを繰り広げる。ジャッジは聴衆の声と審査員による。画面越しにも熱狂と熱気が伝わってきて、若者の文化として定着しているんだなあと圧倒される思いだった。

ちなみにDさんは即興でのバトルは苦手で、しかけられたら「持ち帰ってもいいですか」と言うそうだ。つまりじっくりリリックを考えたいタイプ。ラップには、バトルと、楽曲として音源を出すのと2つの表現方法がある。

画面越しにバトルを見ていて興味深かったのは、お互い相手の発した言葉を1つ2つ取り入れて自分のラップを組み立てていることだ。これは、平安時代の和歌の贈答にも通じるところがある。相手の和歌の1語か2語、必ず取り入れるのが常套手段であり礼儀だった。

俵 万智 歌人

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たわら まち / Machi Tawara

1962年大阪府生まれ。歌人。早稲田大学第一文学部卒業。学生時代に佐佐木幸綱氏の影響を受け、短歌を始める。1988年に現代歌人協会賞、2021年に迢空賞を受賞。『サラダ記念日』『愛する源氏物語』『未来のサイズ』の他、歌集、評伝、エッセイなど著書多数。

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