インドのムンバイを東京と並ぶ一大事業拠点に ムンバイでも貫く住友不動産スタイルとは
住友不動産がムンバイに約1兆円を投資
住友不動産は2000年代前半から不動産事業の海外展開を模索する中で、欧米やアジアなどの各都市を調査してきた。長期保有型のビジネスモデルを目指す以上、成熟しきった都市ではなく、中長期的に成長していくポテンシャルを持った都市を選定する必要があった。
こうしたプロセスを経て、最終的に事業適地として選ばれたのがインド・ムンバイだったのだ。ムンバイは中央銀行、証券取引所他の金融機関やインド大企業の本社・グローバルな企業が集積するインド経済の中心都市であり、近年国を挙げたインフラ整備が急速に進む。新空港、高速鉄道、地下鉄、高速道路などの建設プロジェクトが同時並行で進み、都市の発展は目を見張るものがある。
その一翼を担う新都心BKC地区で新たなオフィスビルが誕生する。住友不動産が開発する第1号計画の工事が着々と進められ、2026年秋に稼働を迎える。同社代表取締役専務執行役員・都市開発事業本部長兼インド事業統括の片山久壽氏はこの市場環境について次のように語る。
都市開発事業本部長兼インド事業統括
片山 久壽氏
「インドは豊富な生産年齢人口を背景に安定した経済成長が続いており、世界中の企業が関心を寄せています。その中でもムンバイはオフィス需要が強い一方で、世界基準のスペックを備えた高規格ビルの供給はまだ十分ではありません。そこで当社が培ってきたオフィスビル開発のノウハウを持ち込めば、必ず成功できると考えました。」
片山氏が紹介するように、インドは総人口約14.5億人、平均年齢は28.4歳で、今後も増加が続くと見込まれている。経済も拡大基調にあり、29年にはGDPで世界3位に達するとの予測もある。そしてその牽引役として位置づけられているのが、人口約1840万人を抱える商都・ムンバイなのだ。
こうしたムンバイの成長性を見据え、住友不動産は19年以降、同都市で相次いで用地を取得してきた。BKC地区での4物件に加え、中心部ワーリー地区では約8万平方メートルの用地を取得し、オフィスビルや高級ホテル、商業施設など総延床100万平方メートル超の大規模複合開発を予定している。計5物件の総事業費は約1兆円の規模に及ぶ。
ムンバイ一都市にこれほどの規模で投資する決断にあたっては、市場の「量」だけではなく「質」にも着目する必要があったと片山氏は強調する。
「インド全体が成長しているからといって、どの都市でも高い価値が生まれるわけではありません。オフィスビル事業として成立させるには、しっかりとした賃料水準が期待できるエリアであることが前提になります。」
住友不動産は、国内でも需給が引き締まった東京都心部にリソースを集中させ、希少性の高いプライム資産を積み上げてきた。インドでも変わらぬ戦略で事業を進めている。需要が旺盛で、企業の中枢部門が集積するムンバイに注力することで初めて、長期保有に耐える資産価値を生み出せる。ポートフォリオを広く薄く投資するよりも、一都市に集中して取り組むほうが、結果としてリスクを抑えられるという判断だ。
インドに根を張る覚悟を示す
住友不動産のムンバイ事業を特徴づけているのが、現地企業との合弁や出資をするのではなく、同社の単独開発という選択だ。自ら用地取得を行い、開発、リーシング、管理までを一貫して自社で手掛ける。この姿勢は、東京で長年取り組んできた都市再開発の延長線上にある。
「インドでは制度や許認可が複雑で、現地パートナーと組む例がほとんどです。当初インド上場企業の社長から『インドでのビジネスは難しい。失敗やリスクも多い。ただ一つ言えることは予期せぬことが起きることは予期できることだ!』と言われましたが、まさにその言葉通り、今日まで予期せぬことの連続でありました。しかし、現地に根を張る事業を目指す以上、予期せぬことが起きたとしても、事業における意思決定を自ら行い、その意志がブレないことが重要です。」と同社の単独進出を振り返る。
街づくりの進展と日印ビジネスへの波及
ムンバイ第1号計画は開業を26年秋に控えているが、レイアウトの自由度が高い無柱空間の大スパンフロア、BCPを意識した無停電設備、セキュリティー、メンテナンスなど既存のオフィスストックでは得られない価値が現地でも高く評価され、テナント誘致も順調に進んでいるようだ。
「既に全体の7割ほど埋まり、竣工時には満床稼働できそうです。ムンバイでは世界基準のハイスペックなオフィスが不足していると感じていましたが、その見通し通り、実際のお客様の反応は非常に早いですね」と同社常務執行役員・インド事業本部長桝井俊幸氏は語る。大手グローバル金融企業などが、東京都心と同等以上の賃料単価での入居を内定しているというから、その評価の高さがうかがえる。
右:2号物件も工事が進む
第1号計画の特徴の1つとして注目したいのが、日本企業を主な対象として設ける「(仮称)ジャパンフロア」だ。
「これからムンバイに進出を予定している日本企業のように、必ずしも大きな面積を必要としない企業にも対応できるよう、比較的小さな区割りでの入居を想定したフロア(ジャパンフロア)を計画しています。事業環境を見ながら通常のフロアに拡張してもらうなど、段階的な進出にも対応可能です。すでに70社を超える申込があり、手応えは非常に多くあります。」(桝井氏)
インド事業本部長
桝井 俊幸氏
サポートの内容はそれだけに留まらない。ジャパンフロアでは、和食を含む飲食機能の導入をはじめ、入居企業のニーズに応じた各種サービスも提供する予定。駐在員向けの住宅や車両の手配、生活面での相談対応など、オフィス事業の枠を超えた総合的なインド事業支援にまで踏み込むのが特徴だ。
「私たちがそうであったように、現地に初めて進出する企業にとっては、オフィスそのものに加え、その周辺環境や立ち上げ時の不安が大きいものです。そこを支えるのも、長期にわたりお付き合いするビルオーナーの役割だと考えています。」と桝井氏はその狙いを語る。
ムンバイBKC地区ではこの第1号計画に続き、第2~4号計画の賃貸オフィスビルを中心とした開発が進む。さらにワーリー地区では、大規模複合開発を計画しており、ビジネス・宿泊・商業など複数の機能を備えた、「巨大なまちづくりプロジェクト」が始まろうとしている。
住友不動産がムンバイで進めるこれらの計画の総事業費約1兆円規模は、日印両国が掲げる「日本企業のインドにおける民間投資10兆円」の中核を成すものである。さらに、投資額のみならず、高規格オフィスビルや複合施設の供給を通じて外資系企業や日本企業の誘致を促し、都市の競争力を高める役割も期待されている。中でも、衛生、防災、セキュリティー、リサイクルなど、進出する日本企業が事業を通じて提供する付加価値への期待も大きい。
片山氏は最後に、次のように語った。
「当社が進める5つの開発事業から生まれる収益を次の開発事業やまちづくりへと繋いでいく。そうしたまちづくりや誘致した企業の経済活動により、ムンバイビジネスが更に活性化し、インド発展の一助となれるように努めていきたい。」

同社としては、ムンバイを東京と並ぶ一大事業拠点に育てるとともに、日本企業の進出を支える代表的な事例にしていきたい考えだ。都市の成長と歩調を合わせながら、長期保有・自社運営というスタイルで価値を積み上げていく。東京で磨いてきた「住友不動産スタイル」の事業の考え方はインドでも変わらない。日印両国のビジネスと現地に根を張るまちづくりの新たなモデルがどのように定着していくか、今後の歩みが注目される。




