石橋湛山の思想から得る「経済と教育の視座」 停滞を超えるために問われる「知の骨格」とは

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石橋氏と北村氏
経済的な閉塞感と社会の分断が深まる現代日本。この難局を打破する処方箋はどこにあるのか。そのカギを握るのが、第55代内閣総理大臣であり、立正大学第16代学長も務めた石橋湛山の思想だ。同大学の現学長で経済学者の北村行伸氏と、石橋湛山記念財団代表理事の石橋省三氏が、湛山の徹底したリアリズムから現代の経済・教育課題を読み解く。

停滞日本の原因は「居心地の良さ」への安住

―日本は長きにわたる経済的閉塞感に覆われていますが、根本原因はどこにあるとお考えですか。

北村 最大の原因は、世界的な技術革新への対応の遅れです。米国ではビッグテックが情報や生活インフラの新しい仕組みを築きましたが、日本にはそこに食い込む変革者が現れませんでした。

立正大学・北村氏
立正大学
学長
北村 行伸

過去の成功体験があまりに大きかったため、既存の組織が変化を恐れ、結果として若い才能の台頭を阻んでしまった面も否めません。大学教育も、新時代に対応した人材育成において後手に回りました。

しかし、日本人は目標が定まったときの「追いかける力」には定評があります。産官学が本気で結束して走れば、今からでも十分に挽回できる余地はあるはずです。

石橋 日本の経済活動はこれまで全体の底上げを図り、脱落者を出さないことを最優先にしてきました。ただそれによって、誰かが淘汰されることを許容するマインドセットに変われなかったことが、30年に及ぶ停滞を招いたのではないかと考えます。

またもう1つは日本の「居心地の良さ」です。日本語だけで不自由なく暮らせるぬるま湯につかっている間に、国際競争力は低下してしまいました。この安住こそが閉塞感の根底にあります。

ただ、もし湛山が今の日本を見たとしても、決して悲観はしないでしょう。彼の根底には常に、日本人の能力に対しての「深い信頼」がありました。われわれには世界に誇れる潜在能力がある。その強みをどう世界への貢献へ昇華させるか、彼ならその1点を見据え続けるはずです。

現代に生きる「湛山流リアリズム」

―石橋湛山の思想は現代にどのような示唆を与えるでしょうか。

北村 湛山の代表的な思想として挙げられる「小日本主義」は自由主義と国際協調を旨としており、分断や帝国主義が回帰する現代において、その先見性が際立っています。

湛山のすごさは、徹底した実利主義とリアリズムにあります。当時は勇ましい精神論に流されがちな時代でしたが、彼は「計算すれば、こちらの道のほうが合理的だ」と極めてクールに説きました。熱情に流されず、冷静な計算に基づいて国の進路を考える。その姿勢こそ、今最も大事なことではないでしょうか。

石橋湛山記念財団・石橋氏
石橋湛山記念財団
代表理事
石橋 省三

石橋 湛山の真骨頂は、徹底した勉強をベースとした現状分析です。同居していて印象的だったのは、書庫にこもり、世界中の本を読みあさっては考えを練り上げる姿でした。資源のない日本がどう生き残るか。彼なら、今の分断が進む世界を直視し、過去の焼き直しではない新しい処方箋を提示したのではないかと思います。

―時代を問わず学びを深める人材が必要である一方で、教育格差や教育機会の不均衡という課題もあります。

北村 経済的事情で退学を余儀なくされる学生は確実に増えています。教育は若者にとって人生を切り開く最大のチャンスであり、誰にでも開かれているべきもの。生まれ育った環境や家庭状況によって学ぶ機会が奪われないよう、本学としても必要な支援をさらに拡充し、安心して学び続けられる仕組みをより一層強化していきたいと考えています。

石橋 北村学長のお話しは、教育機会の提供において非常に重要なポイントだと思います。日本の教育予算は先進国でも最低水準であり、これも長期にわたる経済停滞の根源的な一因と言えるでしょう。しかし、単に漫然と進学させるのではなく、意欲と能力がある人材へ重点的に投資する給付型奨学金のようなシステムの拡充が必要と感じています。

湛山が大学に遺した「真実・正義・和平」の誓い

―石橋湛山の理念を、立正大学の教育にどう生かしていこうとされていますか。

北村 本学は、2022年に開校150周年を迎えたことを節目とし、10年後のあるべき姿を示す「立正グランドデザイン」をまとめました。この根幹には、湛山が学長時代に日蓮聖人の言葉を現代風に言い換え、記した「真実を求め至誠を捧げよう」「正義を尊び邪悪を除こう」「和平を願い人類に尽そう」という建学の精神があります。これはいつの時代、どの社会でも通用する普遍的な真理であり、守り抜くべき軸です。

石橋 立正大学が持つ独自の理念は、国内だけでなく海外からも魅力的に映るはずです。湛山はよく色紙に「和して同ぜず」という言葉を書いていました。「和する」とは、反対意見にも耳を傾ける寛容さを持つことです。

しかし、それは決して「同じ意見になる」ことではありません。大勢が同じ方向を向いている時こそ、「本当にそうか」と疑い、違う道にこそ真理があるかもしれないと考える。単に同調するのではなく、多様な意見を受け入れた上で、あえて自分の道を選ぶ。この欧米的な合理精神にも通じる姿勢こそ、立正大学の教育の骨格として根付かせてほしいと思います。

―立正大学が継承すべき石橋湛山の「最大の知的遺産」とは何でしょうか。

北村 私が最も重要だと考えるのは、「自分の頭で考える力」です。彼が世の中の空気に流されず、日本社会で浮くことを恐れずに正しい道を選べたのは、内側の揺るぎない信仰の上に、「真理と正義」の軸を持っていたからです。

これから予測不能な社会に出る学生たちにも、湛山のような柔軟な知的好奇心と、空気に支配されない強さを身につけてほしいですね。どの世界に進もうとも、「自分の目で見て、自分の言葉で考える」姿勢さえあれば、必ず力を発揮できるはずです。

石橋 私も全く同じ意見です。 他者の意見を頭ごなしに排除しない「度量」と、そのうえで多数派に迎合せず自らの考えを貫く「自律」。この2つを両立させる精神が重要です。これから立正大学が未来に向けて独自の価値を築いていく上でも、この「和して同ぜず」の精神は、学生たちを支える最も太い背骨になると確信しています。

【前首相・石破茂氏登壇】
公開講座「石橋湛山を現代に問う」


・開催日時:2026年2月13日(金)18時開講(17時開場)
・開催地:石橋湛山記念講堂(立正大学品川キャンパス内)
・主催:立正大学(協力:東洋経済新報社)
・申込先:立正大学HPより受付中。下記リンクよりご確認下さい。
※やむを得ない事情で変更の可能性があります

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