セブン銀行ATM「継続的なUI/UX進化」挑戦の軌跡 自走するデザイン組織の確立で変革速度が向上

ATMの多機能化で問われるUI/UXの「改善サイクル」
時間と場所の制約を解消し、金融インフラのあり方を大きく変えたコンビニATM。セブン銀行はその先駆け的存在として、ATMを現金の入出金にとどまらず「社会インフラ」として進化させてきた。その根底にあるのは、「誰一人取り残されない社会」の実現を目指す同社の理念だ。ATMソリューション部 グループ長の花木美穂氏は次のように話す。
ATMソリューション部
グループ長
花木 美穂氏
「今やあらゆるサービスがデジタルシフトし、行政手続きもスマホで完結するものが増えてきました。その一方、スマホを扱うのが苦手で不安を抱えている人もいます。セブン銀行のATMを利用することでそうした不安が解消され、簡単にいろいろな手続きが完了できるようにしたいと考えています」
その言葉どおり、セブン銀行のATMは、ライフスタイルの変化や決済手段の多様化などに合わせて随時アップデート。2001年の創業から25年間で4世代目となる現在のATMには、「ATM+」(プラス)と名前が付けられているように、さまざまな機能が搭載され、多数のサービスが利用できるようになった。
具体的には、スマホ決済や電子マネー・地域通貨へのチャージに加え、顔認証カメラや高精度スキャナなど本人確認機能を搭載したことで、口座開設や住所変更、マイナンバーカードの健康保険証の利用申し込みまで可能となっている。
一方でこうした多機能化は、顧客体験の質を低下させるリスクを伴う。どう操作すればいいかわからなくなり、途中で離脱するおそれもあるからだ。
「だからこそ、『セブン銀行のATMが世の中でいちばん使いやすい』と感じていただけるように、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)の強化・刷新には力を注いできました」と花木氏は強調する。しかし、機能・サービスの拡張は今後も続く。これまで定めていたUI/UXデザインのルールだけでは対応しきれなくなる可能性があった。
「加えて、社会の目まぐるしい変化を踏まえると、今まで以上にスピーディなUI/UX改善が求められることも予想できました。そこで、内製化も見据えてUI/UXデザインプロセスを見直すことにしました」(花木氏)
誰にでもわかりやすい「UI/UX標準」を策定
UI/UXデザインプロセスの変革を支援したのは、セブン銀行の創業以来、ATMの開発パートナーを務めてきたNECだ。
ストラテジーコンサルティング統括部
シニアコンサルタント
吉﨑 智則氏
NECは、ハードウェアとソフトウェアを一体型で提供するだけでなく、UI/UXの専門家が常駐してUI/UXのデザインワークも伴走支援してきた。
常駐メンバーの1人であるNEC ストラテジーコンサルティング統括部 シニアコンサルタントの吉﨑智則氏は、「セブン銀行のATMは、若年層から高齢者、外国人など幅広い層が利用しています。簡単・便利で誰にでも使いやすいことを念頭に置き、かつセブン銀行の世界観を崩さないことに留意しています」と語る。
そうやって個別サービスのUI/UX向上に取り組むことで社会インフラであるATMの進化を止めることなく、同時並行でUI/UXデザインプロセス変革を進めるため新たなルールの策定に取り組んでいった。

その具体的な内容について、NEC コンサルティングサービス事業部門 ストラテジーコンサルティング統括部 Future Creation Designグループ マネージャーの青野信仁氏は、次のように説明する。
ストラテジーコンサルティング統括部
Future Creation Designグループ
マネージャー
青野 信仁氏
「ATM開発においては、セブン銀行のATMのあるべき姿やデザインルールをまとめた『UI/UX標準』を以前から策定していました。しかし、例えば顔認証カメラのように、従来のボタン操作だけでなく顔を動かすなど、これまでのルールでは想定していなかった新たなアクションが生じています。
こうした新しい操作はお客様にとっても初めての体験になるため、丁寧にモニター調査を行い、フィードバックをいただきながら精度を高めていきました。設計の際は既存の標準を参照して統一感を保ちつつ、そこで新たに生まれたルールは『UI/UX標準』へと反映し、チーム全員が参照できる拠り所としています」
「UI/UX標準」は策定後も絶えず更新を続けており、簡単・便利で誰にでもわかりやすく、魅力的なサービスを実現するための指針として機能しているのも特筆すべき点だろう。
例えば画面ならば、分類や遷移、レイアウトパターン、表現方法の規定なども明文化するなど、適切に活用するための設計スキームやルール整備を行い、着実かつ迅速な改善が進められるプロセスを確立している。
UI/UX人材育成につなげたマインドセットの再定義
注目したいのは、「UI/UX標準」の策定と並行して、それを扱う人材のマインドセット変革にも取り組んだ点だ。セブン銀行では内製化を見据え、キャリアやスキルの異なる多様なメンバーがチームに加わっている。そうした状況下で、青野氏は次のように提案したという。
「UI/UX標準は、ATMのあるべき姿やデザインルールを体系化したものです。しかし、策定から時間が経過し、実装される技術や利用状況も変化しています。
単にルールに沿って作業をこなすのではなく、新しく加わるメンバーにもATMサービスの歴史や培ってきたノウハウを『腹落ち』した状態でデザインしてほしい。そのためには、今の時代に合わせて判断基準を点検し、『デザイナーが取り組むべきことは何か』というマインドセットから再定義する必要がありました」(青野氏)
もともとUI/UXを重視していたこともあって、セブン銀行ではUI/UXデザインの理念を明文化していた。その理念では「顧客志向」「独創性」「不断」「ユニバーサル」の4項目だったが、マインドセットを検討した結果、新たに「協奏」が加わった。マインドセットについてメンバーが対話し、互いを高め合うことで成果を出そうという、多様性が高まっている今の時代を踏まえた考え方だといえるだろう。
特筆すべきはワークショップスタイルで、チームメンバー全員の対話から引き出しているという点だ。そのワークショップにも参加したATMソリューション部チーフデザイナーの黒本和美氏はこう話す。
ATMソリューション部
チーフデザイナー
黒本 和美氏
「NECさんが巧みにファシリテートしてくれたこともあり、メンバー同士が思いをぶつけ合うことができました。また、それぞれが課題と感じていることを口にしたおかげで『協奏』の必要性を発見できました」(黒本氏)
こうしてマインドセットを定義したことは、UI/UXの内製化が進む契機ともなった。連続的なUI/UX改善を行うチームを立ち上げ、そのメンバーにマインドセットを伝えることで、スムーズなスキルトランスファーにつながったのである。
「チームが立ち上がってからまだ2年足らずですが、迅速なスキルトランスファーによってかなり内製化が進んでいます。以前は年に2~3件ペースだったのが、現在は月に1件ペースでUI/UX改善ができるようになりました」(黒本氏)
改善スピードと質の向上へ、NECとともに目指すもの
直近では外国人向けの画面や、アニメーションの挿入でキャッシュカードの取り忘れを防ぐためのUI/UX改善を行い、着実な成果を上げている。
「最近追加されているサービスは、手続き内容が複雑なものが多いため、社内外の調整にも時間がかかります。以前までのプロセスだと相当時間を要したと思いますが、自走できるようになったことで素早くお客様へ提供できるプロセスが確立できました。
ATMを多機能化し、さらにお客様の体験価値を高めていくには、新たな技術の実装とUI/UXの強化を両輪で進めていく必要があります。NECさんとはこれからも一緒に新たな価値創造に取り組んでいきたいと思っています」(花木氏)
UI/UX改善に向けたルール整備やマインドセットの再定義で、現場支援と組織づくりを同時に実現したセブン銀行とNECの取り組み。「誰一人取り残されない社会」の実現に向け、両社の挑戦はさらなる高みへ加速していく。






