24時間365日の安全・安心を支える首都高の使命 開通から半世紀、過酷な負荷にどう立ち向かう

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レインボーブリッジ
日本の社会経済の中心、首都圏。その活動を支える首都高速道路は、人とモノの移動を円滑にする役割を果たしてきた。しかしいま、この大動脈は老朽化に直面している。先人が築き上げた唯一無二のインフラを、どのように次世代へつなぐのか。生活者・社会の基盤である首都高を守る取り組みについて、首都高速道路株式会社 東京東局長の波津久毅彦(はつく たけひこ)氏に聞いた。

累積360兆円の価値を生む首都高を襲う老朽化の波

東京オリンピックを前に建設が始まった首都高は、1962年12月20日の開通からすでに半世紀以上が経過した。現在、全長327.2km、交通量は1日平均で約106万5000台、年間では約4億台にのぼる。波津久氏は、この数字の重みを次のように説明する。

「首都高は、物流の効率化や渋滞解消などを通じて、2020年までの累計で約360兆円もの経済価値を創出してきました。日本の社会経済を支える『大動脈』として、首都圏の円滑な移動と発展に欠かせない役割を果たしています」

首都高速道路株式会社 東京東局長 波津久毅彦氏
首都高速道路株式会社 東京東局長 波津久 毅彦

首都高には、維持管理を担う組織として、東京東局、東京西局、神奈川局の3つのセクションがある。このうち東京東局は、都心東部を中心としたエリアを担当し、全長の約4割に相当する路線を管理している。

網の目のように広がる首都高速道路
網の目のように広がる首都高速道路

最大の特徴は、交通量の多さだ。東京東局が管轄する路線の1日当たりの交通量は、約63万台にのぼり、首都高全体の約6割を占める。中でも、湾岸線は交通量が集中する区間で、最も交通量の多い箇所では1日最大約15万8000台が通行。首都圏において、最も多くの車両が行き交う路線の一つだ。

大型車混入率が高い湾岸線
大型車混入率が高い湾岸線

また、湾岸線は大型車の通行比率が際立って高い。首都高の全路線では、走行車両のうちトラックやトレーラーが占める割合は平均約22%にとどまる。これに対し、湾岸線の一部、特に大井埠頭周辺の入口では、その割合が約60%に達する。

この数字が示しているのは、湾岸線が首都圏の物流を支える生命線であると同時に、道路構造物に最も過酷な条件が課される路線だという事実だ。負荷の大きさを理解するうえで、首都高の構造的な特性を押さえておきたい。

首都高は道路の95%以上が高架橋やトンネルといった構造物で構成されている。そこに物理的・環境的な負荷が幾重にも重なるため、維持管理の難易度は必然的に高くなる。

「首都高は、一般的な道路とは条件が大きく異なります。重量のある車両が昼夜を問わず走り続ける環境は、構造物にとって極めて過酷です。また、湾岸線のような臨海エリアでは、海からの飛来塩分による腐食やサビの問題が深刻化しています。橋やトンネルを安全な状態に保つため、日々きめ細かな点検を行い、傷んだ箇所を直し、損傷を補修し続けています」 

首都高の場合、法令に基づき5年に1度の詳細な点検・診断を徹底し、その結果をもとに補修を行っている。橋の継ぎ目の交換や塗装の塗り替えなど、補修対応件数は約3万4000件(2024年度実績)にのぼる。

昼夜問わず実施されている点検作業
昼夜問わず実施されている点検作業

「未来への投資」と「今日の安全」の二層で健全性を維持

しかし、日常的な点検や損傷補修だけでは限界がある。一部では健全性を抜本的に回復させる取り組みが、避けて通れない段階に入っているのが実情だ。そこで、「大規模更新・修繕事業」を推進しており、日本橋区間の地下化をはじめ、東品川桟橋・鮫洲埋立部、高速大師橋の更新などがその代表例である。

いずれも老朽化対策にとどまらず、都市景観の再生や渋滞緩和、さらには首都直下地震への備えといった、将来にわたる首都圏の価値向上を視野に入れたプロジェクトだ。

東京東局が管轄する湾岸線でも、各所で大規模更新・修繕事業を進めている。その一つが、1978年に開通した荒川湾岸橋(橋長840m)だ。鋼鉄製の三角形の構造を基本単位とする形状ゆえに塩分が滞留しやすい。結果として、鋼材の劣化が想定以上のスピードで進んでいることが確認され、2025年より長寿命化に向けた大規模修繕に着手している。

建設時の荒川湾岸橋の状況(左)、塗膜のはく離・腐食が生じた現在の損傷状況(右)
建設時の荒川湾岸橋の状況(左)、塗膜のはく離・腐食が生じた現在の損傷状況(右)

「既存の塗膜を下地からすべて除去した上で高耐久塗装を施し、長期にわたる健全性の確保を図る計画です。あわせて従来アクセスが困難だった箇所には、常に点検・補修ができるよう、点検通路や常設の足場を設置し、維持管理性そのものを高めていきます」

大規模更新・修繕事業が「未来への投資」だとすれば、日々の補修やパトロールは「今日の安全」を守る営みだ。路上で起きるわずかな異変をその場で食い止められなければ、首都高は一瞬で機能不全に陥る。

「首都高は24時間365日体制でパトロールを継続しています。2024年度の実績で交通事故9295件、故障車1万426件、落下物1万8415件と、年間で約3万8000件ものインシデントに対応しました。交通事故や故障車に加え、ときには冷蔵庫やバスタブといった大きな落下物も回収することがあります。あらゆるトラブルに迅速に対処することで、重大事故の未然防止と円滑な交通の確保に努めています」

首都高は路肩が狭く、本線上でインシデントが起きればすぐに渋滞につながる。そこで、パトロール部隊は警察や消防と連携し、安全を確保しつつ、いち早く現場を処理して交通を元に戻す役割を担っている。また、地震や台風などの自然災害発生時には対策本部を設置し、通行止めの判断を含めて速やかに対処している。

24時間365日体制で交通状況を監視する交通管制室
24時間365日体制で交通状況を監視する交通管制室
交通巡回隊員がパトロールカーで定期的に巡回監視する
交通巡回隊員がパトロールカーで定期的に巡回監視する

先端技術も積極活用。社会とともに支える首都高の未来

近年、首都高では現場のプロフェッショナリズムを補完するため、DXによる維持管理のスマート化を本格化させている。AIによる路面損傷の自動検知や、ドローン、特殊な磁石で移動する特殊点検ロボットの活用を推進してきた。波津久氏は、次のような具体例を紹介する。

「3次元点群データからデジタルツインを構築する『インフラドクター』を用い、将来の補修タイミングのシミュレーションを行っています。メーカーの方々が持つ高い技術を、いかに現場のニーズとマッチングさせて技術開発を行うことこそが、道路インフラの管理者に求められている役割です」

将来の補修タイミングを図る『インフラドクター』
将来の補修タイミングを図る『インフラドクター』

培われた知見は、鉄道や空港など他のインフラ分野の維持管理にも応用され始めているという。

現在、同社は「首都高快適走行ビジョン2040」を掲げ、より走りやすく、時間を読めるインフラへの進化を目指し、AIによる高精度な渋滞予測の提供なども構想されている。

「首都高快適走行ビジョン2040」イメージ
「首都高快適走行ビジョン2040」イメージ

こうした事業活動を支えているのは、利用者をはじめとする様々なステークホルダーである。波津久氏は「お客さま」の定義を、「高速道路を利用する方だけでなく沿道に居住する方々も含む広い意味で捉えている」としたうえで、コミュニケーションの重要性をこう強調する。

「環境への配慮や地域文化の支援、SNSでの発信などを通じて、首都高をより身近に感じていただくための接点を広げています。それにより、お客さまが私たちの活動に寄り添ってくださるのではないかと考えています。社会全体との相互理解を深めることこそが、首都高というインフラを次世代へ確実につないでいくために不可欠です」

新都心線 見沼たんぼ地区での自然体験会の様子
新都心線 見沼たんぼ地区での自然体験会の様子

首都高の維持管理とは、過去に築かれたインフラを単に「守る」行為ではない。刻々と積み重なる時間と交通負荷に正面から向き合いながら、安全という価値を更新し続ける、社会との共同作業である。「お客さま一人ひとりの理解と協力」があってこそ、その営みは持続することができるのだ。

「あなたが進む。首都高が進む。」――この言葉を掲げ、首都高はこれからも社会と向き合いながら、未来へ続くインフラづくりを続けていく。