民主・平和を貫いた信念の言論人
社会を変革する先取り精神を生かせ

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強烈な反時代的思想の背景にある日蓮宗

――日本が植民地経営をしたとしても得られる便益は、それにかかるコストを下回ると試算した湛山は、経済合理性の立場から、大日本主義に反対したと一般的には理解されています。しかし、なぜ湛山は、そうした思想を持つことができたのでしょうか。

ジャーナリスト
田原総一朗
Soichiro Tahara
1964年東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。1977年フリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ」などでテレビジャーナリズムの新たな地平を拓く

田原●日本が列強を追いかけて世界に伸びようという時に、伸びなくてもいいと言ったわけだから、強烈に反時代的な思想です。私も世の中の流れに逆らうことの難しさを経験したことがあります。1977年当時の日本のジャーナリズムは、軍事政権だった韓国を批判していました。僕は、そんなことはないだろうと、韓国の急速な経済成長を取材してルポを書いたのですが、「田原は韓国の情報機関からカネをもらって宣伝をしている」と、糾弾を受けました。その後、ルポの正しさは証明されますが、時代の空気は現実を覆い隠してしまうのです。まして、湛山があらがったのは戦前という時代です。孤立を恐れなかった背景には宗教的信念のようなものを感じます。

山﨑●湛山は、日蓮宗の僧侶の家に生まれ、10歳で別の寺に預けられました。その実父、師僧とも、後に日蓮宗総本山である身延山久遠寺法主となり、立正大学学長を務めています。湛山は学長として「真実」「正義」「和平」を柱とする、立正大学の建学の精神を策定しますが、これは日蓮聖人の代表著作の一つ、『開目抄』にある三大誓願を基にしています。時流に流されず、信念を貫いたジャーナリストとしての湛山の姿勢は、三大誓願という原点から、ぶれることのなかった日蓮聖人の不屈の生き様に対する敬意があると思います。

自由に暗中模索できる大学の環境を整える

――湛山の思想を、これからの大学教育にどう生かせばいいでしょうか。

山﨑●立正大学の校名は、日蓮聖人の『立正安国論』にちなみます。日本一国にとどまらず世界を安んじるために正しきを立てる。高等教育機関として真実と正義を探究して和平の実現を図るという湛山が定めた建学の精神は、現在にも妥当する普遍性があると思います。

田原●正しいとは何か、とは難しいテーマです。正しいと信じ切ることは、ある意味で危険なことでもあります。僕は、正しさとは、自由に暗中模索できることだと考えています。そのためには、正解を求めようとする今の教育を、入試のあり方から見直すべきでしょう。

立正大学学長
山﨑和海
Kazumi Yamazaki
専門は経営情報学、情報システム学、経営情報教育、教育と情報化。2010年より現職

山﨑●本学では、文部科学省のAP(教育再生加速プログラム)助成を得たアクティブラーニングの教育プログラムをはじめ、〈「モラリスト×エキスパート」を育む。〉教育の一環として、教員の講義を聴くだけの受け身の教育から脱し、能動的な教育へと歩み出しております。

――日本では、従順な学生を大企業に多く入れることが、大学の評価につながってきました。しかし今後は、学生が自身で何かをやろうとする精神を育てることが、重要かと思われます。

田原●戦前の小日本主義という湛山の主張は、カネのかかる安全保障は米国に任せて経済成長に専念するという日本の戦後政治の考え方に通じています。つまり、湛山は見事な時代の先取りをやってのけたのです。今、ベンチャー企業を立ち上げる大企業出身の若手研究者が増えるなど、若者の目はイノベーションに向いています。立正大学が、社会を変革する湛山の先取りの精神を生かした教育を展開することを期待しています。