現場の知見を競争力にする「データ活用」のあり方 伊藤忠ら3社が描く「日本流DXの勝ち筋」とは

「世界標準」の活用で進化し続けるシステムに
――日本企業におけるDXの課題と、伊藤忠グループが推進するデジタル事業群戦略の狙いについてお聞かせください。
情報産業ビジネス部
デジタルバリューチェーン課 課長
小泉 圭巧氏
小泉 現在、“DX”や“AI”などの言葉だけが先行しがちですが、実際に企業が導入するためには各社固有のビジネスモデル・社風・働き方など多くの要素が絡みます。この時代には、技術的なシステム導入の形態だけでなく、業務手順を変えてシステムに合わせるのか、無理にすべてをシステム化せずに残った業務はBPOとして社外に切り出すのかなど、お客様のニーズに応じて適切な選択肢を取りそろえ、提供することが必要です。
そこでグループの中核であるCTCの提案の幅を広げるべく様々なパートナー企業と提携し、コンサルティングからソフトウェア提供、BPOを含む運用サポートまで、お客様の状況に合わせて適切な機能を提供できるようにしているのが、当社グループのデジタル事業群戦略になります。
リテール&サービス事業グループ
リテール&サービスビジネス 企画本部長
重藤 倫氏
重藤 当該戦略の中で最もお客様から要望が多いお題の1つが、SAPを中心としたERP関連です。企業の経営、およびDXの根幹を担う財務会計など基幹システムの改革において、私たちは「Figues(フィグ)」というサービス名称で、SaaS型ERPである「SAP S/4HANA® Cloud Public Edition」の導入支援や周辺機能追加支援を行っており、日本のERPの変革を推進しています。
昨今のERPはクラウド化が進むとともに、基本的な機能(コア)を標準のまま使ってカスタマイズを極力抑える「Fit to Standard」が主流となりつつあります。これまで企業のIT運用にとって、カスタマイズしたシステムの更新には多大な工数とコストを要してきました。Fit to StandardによるクラウドERPの導入では、定期的なバージョンアップにより常に進化し続け、最新のIT技術とアプリケーションを活用できるシステム環境が整います。
ただ、すべての基幹業務を標準機能だけで賄うことは、事実上困難です。他社との競争領域では差別化が必要ですし、例えば多くの企業では帳票の領域にも、企業固有のプロセスが色濃く残っているものです。そこで、ウイングアーク1stの帳票ソリューションを疎結合で連携させれば、標準機能は手を加えずクリーンな状態で使いながら、柔軟な業務への対応を両立できると考えています。
事業戦略本部 本部長
久我 温紀氏
久我 業務プロセスが標準化されると、データの品質の向上や一貫性のある運用が期待できます。しかし現実には、帳票をはじめとする固有のロジックが多くの業務に密接に組み込まれており、これを一律に変えてしまうと、かえって業務効率が悪くなってしまう可能性があります。
このような欧米のソフトウェアではフォローしきれない、各社が持つ業務プロセスも緻密にカバーできるのが、国産ソフトウェアメーカーである当社の強みです。
ERP×非構造化データで意思決定を高度化する
――DXでは業務効率化だけでなく、企業が蓄積した独自データの活用もポイントです。CTCではどのように取り組んでいますか。
重藤 ERPに保存されるデータは「ビジネスにおける意味づけがしっかりした標準的データ」であり、それがどんどん蓄積されていくという点で、データ活用の基本として使いやすく優れています。このERPのデータのリアルタイム性を生かして分析や意思決定に活用できる「D–Native」というデータ&アナリティクス/AIソリューションを提供し、統合的なデータ活用を支援しています。
久我 一方で、企業内にはERPに入らない「非構造化データ」が世界的にも急増しています。特に現場の力を生かすボトムアップ型の経営に強みがある日本企業においては、この非構造化データを活用した意思決定がますます重要視されると感じています。
例えば財務の数値が悪化したときに、ERPのデータだけでは詳細な原因を解明することはできません。人員や設備、業務などの変化といった社内に存在する知見をデータとして連携させることで、初めてその原因を解明し次の打ち手につなげることができます。よりよい打ち手のためには、ERPもERP外のデータも有機的につなげて判断することが重要になります。
「真正性」を保ちながらデータ活用の最適解の提案へ
――コアなシステムはERPの標準機能を使うことで運用負荷を減らし、独自の競争領域はウイングアーク1stのようなサードパーティーの拡張機能で補う。これが3社の考えるシステムの方向性でしょうか。
小泉 そのとおりです。お客様自身がシステム導入の最適解を検討する過程で、何が本来の導入目的なのか迷われるケースが多くあります。このパートナーシップによって、お客様の本質となる課題を整理してひもとき、最適解を提案していく狙いです。
例えば、SAPを導入するときなどは、自社にとって強みにならない非競争領域の業務はなるべく標準機能を使い、競争領域は拡張機能を活用してデータに変え、システムに覚えさせていく。とはいえ何でもシステム化するわけでなく、一部は外部にアウトソーシングする業務として残すこともあります。
海外のグローバルなシステムインテグレーターは、これらの切り分けが非常にうまい。今後AIの進化により切り分けの選択肢はさらに増えると予測しています。
久我 また、AI時代においてはデジタルデータの信頼性を確保することが不可欠です。生成AIを用いれば、領収書などの証跡データも容易に改ざんできてしまう可能性があります。 データが本当に正しいか自体が疑われるため、データの安全な管理・運用体制がさらに重要になります。
当社はエンタープライズの利用に耐える信頼性の高いタイムスタンプサービス「Trustee(トラスティ)」を開発し、企業が意思決定に用いるデータ自体のセキュリティ強化に取り組んでいます。
重藤 データの真正性がなければ何も始まりませんから、このサービスはDXの入り口として非常に価値が高いものです。ウイングアーク1stとの提携で、CTCとしてお客様に提供できる価値が高まり、広がっていることを実感しています。
小泉 AIの進化によってデータ基盤の重要性が増す中で、ITを使いこなしてビジネスをドライブする企業とそうでない企業の差は今後ますます広がっていくとみています。3社のパートナーシップで、1社でも多くの企業にITでビジネスを加速させるためのサポートをしていきたいです。




