「第二の創業」で挑むオムロン制御機器事業の変革 事業トップが語る、成長に向けた技術&人財戦略

オムロンの中核事業、IABが持つ「3つの強み」
――制御機器事業は、顧客にどのような価値を提供してきたのでしょうか。
山西 オムロンの制御機器事業(以下、IAB)は、全社売り上げの約45%を占める中核事業です。製造現場のファクトリーオートメーション(以下、FA)を通じて、世界中のモノづくりの課題解決に取り組んでいます。
AI・データセンタ向けをはじめとした半導体業界やEVなどの自動車業界、二次電池、食品、医療、物流などを主要市場とし、「幅広い商品群」「高度な制御を簡単に実現する制御アプリケーション」「製造現場データを活用したサービス」という3つの価値を提供することで、お客様の生産現場の高度化を支えています。
FAを事業ドメインとする企業はほかにもありますが、当社は、機械が動き、人が作業を行う製造現場で生じる具体的な課題に対してソリューションを提供することを主なミッションとしています。当社のソリューションは、その幅広さに加え、自らも生産拠点を持ち、そこで磨いてきたリアルな現場感覚に根付いていることもユニークポイントです。
――そのユニークポイントについて具体的に教えてください。
山西 3つあります。1つ目は「商品」で、ラインナップの広さが強みです。
当社は設備の自動化を構成するすべての商品を1社で提供できる唯一の(※)FAカンパニーです。ラインで搬送される製品を検出・検査する人間の目に当たるセンサ。センサからの信号を受け取り設備の各機器に制御信号を送るコントローラ。それに従い機器を動作させるサーボシステムとロボット。これら一連の動作から作業者の安全を確保するセーフティ機器群や、様々な機能を有し自動化を支え進化させるコンポーネント群。こうした工程を自動化する要素をすべて1社で担えます。※オムロン調べ
2つ目は「制御アプリケーション」。当社が提供する幅広い制御機器をソフトウェアですり合わせ、高速・高精度な自動化制御を簡単に実現できるアプリケーションとして提供しています。
なかでも半導体やEVの二次電池はとくに高速・高精度が求められる領域で、当社の制御アプリケーションが高く評価されています。生産性、品質、コストが高いレベルで要求されるこうした量産技術のキー工程において、当社の制御アプリケーションは必要不可欠なものとなっています。
3つ目は、製造現場の「DX」です。近年は地政学リスクが高まり、製造する製品や場所を急に変更するなどの対応を迫られるケースが珍しくなくなりました。こうした意思決定を経営が迅速に行い、現場が柔軟に対応していくには、データ環境を整えてデジタルの力を借りる必要があります。
当社は20万点以上のIoTデバイス群から吸い上げた現場データを、IT側の知見と融合させる独自の「次世代データ基盤:VCP(Virtual Control Platform)」を構築しました。
最大の特徴は、ITとOT(制御技術)の様々なデータをミリ秒単位で「時刻同期」させる「High Precision Sync」です。これにより、例えば製品1個単位のカーボンフットプリントやトレーサビリティの実現だけでなく、リアルタイムに収集・統制・分析し、課題を特定することで、ラインを止めずに制御プログラムをアップデートし、生産性の向上を図ります。
またこの特徴を適用することで、例えば生産工場の変更や、生産品種の変更に基づき、現場の工程やプロセス、さらにはミリ秒単位の制御プログラムまでを仮想空間で迅速にシミュレーションをし、現場へ即反映する「Real-time Orchestration」が可能になります。
このITとOTの真の融合こそが、製造業が長年突破できなかった「システムのサイロ化」や「レガシー設備のDX化」という壁を打ち破る鍵となります。
このように当社は、幅広い商品ラインナップによる顧客の安定的なQCD(品質・コスト・納期)の確保、制御アプリケーションを生かした先端の量産技術工法の確立、そしてDXによるサステナブルなモノづくりへの進化を支えています。世界の製造業が直面する今と今後も続く課題に徹底的に向き合い、それを解決する価値を幅広く創出しているのです。
「第二の創業」に欠かせないデジタルの強化
――現在、IABは「第二の創業」に取り組んでいます。
山西 市況の悪化を受けて業績が一時低迷しました。それを機に積年の課題に着手する決断をして構造改革を実施しました。
顧客起点という原点に立ち返り、事業オペレーションを再構築する取り組みを1年半の短期集中で行いました。IAB全社員が顧客起点を実行するために、会社のOSを入れ替え、現在は次のフェーズに移行しています。
この刷新されたOSの上で、愚直にお客様の声を聞くという創業の精神に回帰すると同時に、未来に向けて新しい価値を創るという思いを込めて「第二の創業」と宣言しました。ここにはソフトウェアやデータを基軸に、製造業のお客様に向け新しい価値を創造する先駆者になる、という強い意志を込めています。
インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー社長
山西 基裕氏
――「第二の創業」として、具体的にどのような戦略で再成長を目指すのでしょうか。
山西 再成長するには、愚直に顧客満足を追求し、心動かすモノづくり体験を創造して提供することが大切と考えています。そのためまず重視したいのは、安定的なQCDの提供です。
お客様の生産現場では、人財不足や熟練した生産人財の減少などもあり、必ずしもサステナブルとは言えない状況になっています。設計から立ち上げ、運用、メンテナンスまでの一連のカスタマージャーニーにおいて、「誰でも使いやすく、簡単に立ち上げられ、問題が生じても瞬時に原因がわかり解決できる」ことを幅広いラインナップにまたがって実現できれば、現場に安心感を生み、結果としてお客様における“感動”の面積が広がっていくはずです。
技術的には、高速・高精度の制御アプリケーションと連携したデジタルツインによる3Dシミュレーションや、AI活用による詳細設計・制御プログラミング・検証・トラブルシューティングを行う取り組みも積極的に推進しています。
また、現場データを活用した製造DXも非常に重視しています。先ほどお話しした次世代データ基盤「VCP」を活用することで、ハードウェアの稼働データだけでなく、日報や品質記録、保守履歴といった現場のデータやノウハウまでも統合して分析することが可能になります。
この基盤上で、AIやクラウドなどのデータ分析に長けた戦略的パートナーであるコグニザント社のIT領域の知見を融合させることで、システムのサイロ化を解消し、熟練工の技能伝承や品質改善、設備の故障予知といった高度な製造DXを実現していきます。
こうした取り組みを通じて、「第二の創業」にふさわしいIABの再成長ストーリーを描き、施策の実行を加速させています。
京都から始まる、世界のモノづくり革新への挑戦
――成長戦略を担う人財については、どのようにお考えですか。
山西 IABはハードウェアや制御技術に強みがありますが、3DシミュレーションやDXなどの領域は今まさに拡張している最中です。さらに、プログラミング言語だけでなく自然言語でも詳細設計が進められる時代になり、生成AIの技術も欠かせない要素になってきました。
こうした新しい技術を取り込むには、外部パートナーとの協業に加えて、ソフトウェアエンジニアの人財を一層強化していく必要があります。
その象徴が、京都に新しく構える開発拠点です。ここでは当社の制御技術とソフトウェア、データ、AIなどを融合させる開発を進めていきます。単に技術者が勤務する場所に終わらせるつもりはありません。まず、ここを起点にソフトウェア中心の新しい組織文化をつくっていきます。
また、世界に羽ばたく拠点としても活用していきたいと考えています。IABは売り上げの約7割を海外が占め、社員も海外拠点に所属するメンバーが多数を占めるグローバル事業です。
その新たな開発拠点を世界的にもブランド価値の高い京都に置き、国内外の各拠点で働く社員の知見や技術を結集させることで、世界のモノづくりに革新を起こす発信源にしたい。「第二の創業」という転換点を、強い意志で体現する場所にしていきます。
世界中の現場課題が集まり、そこから新しいコンセプトや技術が生まれる。そして、ここで立ち上げた技術が、やがてグローバルのスタンダードになっていく。そんな姿をイメージしています。その出発点に立ちたいエンジニアにとって、挑戦のできる環境だと考えています。
――具体的にはどのような人財を求めていますか。
山西 オムロンは「ソーシャルニーズの創造」を私たちが大切にする価値観(バリュー)の1つに掲げています。その観点から、世界のモノづくりの課題や社会的課題を自ら先駆者となって解決したいという野心やWill(意志)を持った人財を求めています。
社会的課題の解決には挑戦が欠かせません。構造改革を経て、チャレンジそのものを評価し、成果につながった取り組みをしっかりと認める評価処遇制度・運用へと見直し、これからも継続的に進化させていく方針です。「難しいテーマに挑みたい」「業界の当たり前を変えてみたい」と思う方が、挑戦しやすい環境を整えています。
実際、採用の場でも、挑戦するマインドを持った技術者の方が増えてきています。例えばソフトウェアエンジニアの方が、生産現場で自分の仕事がフィジカルに効いて、装置やラインの動きが変わっていくのを見て「かっこいい」と感じた、という話もありました。自分の技術が目に見える形で現場や社会に影響していく実感は、FAならではの魅力だと思います。

モノづくりの世界も、これまでの属人的な暗黙知中心のやり方から、暗黙知をデータ化して活用していく方向へと転換するタイミングにあります。その意味で、ほかの業界で腕を磨いてきた方が、モノづくりの世界に飛び込む余地も広がっています。
「自分の技術が社会にどう活かされているのかを、もっと実感できる環境で挑戦したい」──そう感じているエンジニアの方には、IABという選択肢をぜひ検討していただきたいですね。一緒に、次の時代のモノづくりを形にしていければと思います。



