産業の自律化をリードする横河電機の技術と信頼 持続可能社会と顧客の企業成長の最大化を支援

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今年で創立110周年を迎えた横河電機は、2025年4月1日付で奈良寿氏からバトンを受け継ぎ、重野邦正氏が代表執行役社長に就任した。重野社長は技術系出身で、顧客プラントのシステムの立ち上げをはじめ国内外の数々のプロジェクトに携わり、トータル14年駐在した中東では顧客との信頼を基盤に事業の拡大を牽引してきた。重野社長に、同社の強みと戦略を聞いた。

測定・制御技術を基盤に高い信頼と品質を提供

重野邦正社長のキャリアで特に注目されるのが、入社以来ほとんどの年月を、お客様のプラント、ビジネスの現場で、実行部隊として過ごしてきたことである。仕事で27カ国を訪問。中東には計14年駐在する中で、中東・アフリカ地域の拠点長としても、ビジネス責任を担ってきた。今や中東・アフリカは同社の地域別売り上げで日本に次ぐ拠点である。

横河電機 取締役 代表執行役社長 重野 邦正
横河電機
取締役 代表執行役社長
重野 邦正

「文化の違いも大きく苦労はありましたが、お互いをリスペクトする姿勢とお客様視点を徹底することで現地の人たちと目標を共有して成果につなげ、達成感を分かち合えました」と振り返る。

そんな重野社長が舵取りを任された横河電機の事業は、大きく制御事業、測定器事業、その他の新事業に分けられ、主力の制御事業が売り上げの9割を占める。制御事業はエネルギー&サステナビリティ、マテリアル、ライフの3つの分野からなり、制御事業の製品・ソリューションを図1のように4つのレベルに分けている。

YOKOGAWAの製品・ソリューション

横河電機はこれらを包括的に提供しているが、とりわけデータを測り制御する部分に圧倒的な強みを持ち、それが顧客からの高いロイヤルティーにつながっている。「圧力、温度、流量といったデータを正確に捉え、それを基に生産や安全を高い信頼性でコントロールする技術が、私たちの事業の基盤になっています」と重野社長は明言する。

自律制御AIの実装で信頼・安定を上の次元に

高品質を追求してきた横河電機が、新時代のプラント制御を目指して開発したのが、1975年に発表した「CENTUM」である。分散形制御システムとして世界で初めて発表され※1、今年50周年を迎えた。プラント内の膨大なデータを収集して最適な値になるよう制御する頭脳として、自動運転を支えている。今日では、効率的で安定した生産を可能にするのみならず、事故防止の機能も一元化できる。常に進化を続け、発売から半世紀で120カ国以上に3万以上のシステムが導入され、安全かつ安心な操業を支えてきた。今後、自律制御AI※2の対応なども含め、プラント操業の自律化を実現する機能を充実させていくという。

ENEOSマテリアルの化学プラント
ENEOSマテリアルの化学プラント

自律制御AIは2018年に奈良先端科学技術大学院大学と共同開発したもので、第52回日本産業技術大賞で内閣総理大臣賞を受賞している。ENEOSマテリアルの化学プラントでの実証実験において約40%のCO₂排出量を削減するなど環境負荷を低減した。強化学習AIがプラントを直接制御するものとして正式に採用されたのはこれが世界で初めて※3であり、今日まで約3年にわたり安定した稼働を続けている。直近では、世界有数の総合エネルギー・化学会社、アラムコの大規模ガス製造プラントに、相互に連携する複数の自律制御AIを導入し注目を集めている。

さらに、横河電機がいま注力しているのが、同社のパーパス「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす。」でも掲げる「つなぐ力」を体現するような「Systemof Systems(SoS)」である。これは、独立して運用、管理されているシステムの集合体が連携し、より大きなシステムを形成すること。工場、企業、サプライチェーンのみならず、社会のエコシステムにつながることで、さまざまなステークホルダーに相乗効果と新しい価値をもたらしていくもので、その一例が、「ロッテルダム港湾公社との実証実験」だ。コンビナート内での産業間連携により電気、熱、蒸気などの需給を最適化し、コストやCO₂排出量の削減につなげる取り組みである。

オランダのロッテルダム港は、120以上の製造業事業者が立地する欧州最大規模の港湾。同社の高度なシミュレーション技術や地域エネルギー・マネジメント・ソリューションとコンサルティングで、複数の企業間の効率化を支援する。重野社長は「サステナビリティと産業競争力の両立を実現する世界のロールモデルとなることを目指し、着実に取り組みを進めていきたい」と将来を見据える。

宇宙空間から深海まで、技術で社会貢献を目指す

横河電機の強みは、医薬や食品のバイオ研究などライフサイエンスの分野にも広がりを見せている。「生きた細胞を高精細に観察できる独自の技術は、国際宇宙ステーションでも活用されています」という。

ほかにも宇宙空間では、トヨタ自動車がJAXA(宇宙航空研究開発機構)と進めている計画でもその技術力を生かす。有人月面探査計画において必要とされる、居住機能と移動機能を併せ持った車両向けの、計測・制御機器の研究開発が進行中だ。

「きぼう」日本実験棟(JEM)の全景
米国の船外活動(EVA)中に撮影された「きぼう」日本実験棟(JEM)の全景

一方、深海においては、水深3436mもの海底でわずか7cmの海面の変化を捉えるセンサーが、南海トラフ海底地震津波観測網(N-net)に採用されている。海底に沈めると取り出すことは容易ではないため、壊れず、長期にわたって安定して稼働できることが重要となる。このセンサーは主力製品の1つで培った技術を発展させたものであり、数々の試験を通して高い信頼性が確認されたため採用されたという。

確かな技術と実行力で社会と産業を支え、100年以上にわたり信頼を得てきた横河電機。重野社長は、「われわれの最大の営業力は、確かな技術に裏打ちされた製品をお客様にしっかり納めて安定稼働させ、レピュテーションを得ること。そして、技術と実行力を、優れた人財を通して次世代につなげていくこと。それこそが、われわれのビジネスが成り立つ核心であり、存在意義なのです」と思いを込める。

※1:独立行政法人国立科学博物館が選定する平成24年度「重要科学技術史資料(未来技術遺産)」への登録時や、2021年3月第14回電気技術顕彰「でんきの礎」に選定された際、世界初とされている
※2:強化学習AIアルゴリズム  FKDPP:Factorial Kernel Dynamic Policy Programming
※3:2023年3月に市場調査会社IoTAnalytics(IoTアナリティクス)社が行った公開情報の調査結果に基づく