NTTが指し示す「AI時代」と「量子時代」の近未来 光技術とAIでコンピューターはどう変わる?

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NTT R&Dフォーラム 2025
2025年11月に開催された「NTT R&Dフォーラム 2025」では、量子力学的な飛躍に加え、ビジネス等における劇的な進歩という意味を込めたキーメッセージ「Quantum Leap」のもと、ネットワークから光コンピューティングの領域へ進展する「IOWN」や生成AIの「tsuzumi」、さらには、光量子コンピューターなど、NTTの最先端技術とその社会的インパクトが明らかにされた。以下、そのエッセンスを紹介する。

2030年に世界トップクラスの
量子コンピューターの実現へ

NTTは、約2,400名の研究員を擁し、情報通信技術(ICT)の基礎研究から事業会社のビジネス展開を支える研究開発に至るまで、多彩な活動を展開している。優れた研究員を数多く抱え、通信や暗号、機械学習、デバイス、物性等の各分野における投稿論文数は世界トップクラスの実績を持つ。

「NTT R&D FORUM」は、そうしたNTTグループによる研究開発の成果を、完全招待制のもと、キーパーソンによる講演と多数の技術展示・デモを通じて一挙に披露するイベントだ。今回の「NTT R&D FORUM 2025」に登場したNTT代表取締役社長の島田 明氏は「光技術によるコンピューティングの革新」と題した基調講演を展開し、その中でNTTが実用化に取り組む「光量子コンピューター」について次のように説明する。

NTT 島田明社長
NTT 代表取締役社長
島田 明

「従来型のコンピューターは、1つのビットに“0”か“1”かの1つの状態しか持たせられませんが、量子コンピューターでは1つの量子ビットに2つの状態を同時に持たせることができます。ゆえに、量子ビット数を増やすことで計算能力を飛躍的に向上させ、従来型のコンピューターでは解けなかった問題を解くことが可能になります。ただし、量子コンピューティングを実現するための『超電導方式』や『中性原子方式』には、量子ビット数を増やそうとすると非常に大掛かりな装置が必要になるというネックがありました。それに対して、われわれが採用する光量子方式のコンピューターは、常温・常圧での動作が可能で、他の方式に比べ圧倒的に省スペース、省電力、低コストで量子ビットが増やせる(圧倒的なスケーラビリティ)という利点があります」

この利点を生かすかたちで、NTTは2030年までに東京大学発のベンチャーであるOptQC社などとともに、世界トップレベルに相当する100万量子ビットの光量子コンピューターを実現する計画だ。

島田氏は「量子ビットの数が100万個のレベルに到達すれば、創薬や大都市交通・物流の最適化など、社会的なインパクトの強い汎用的な領域での量子コンピューターの利用が可能になります」と付け加える。

IOWNの革新で
消費電力を100分の1へ

今回のフォーラムでは、NTTの光コンピューティング技術「IOWN」のロードマップや、2023年よりNTTが開発を進めるオリジナルの生成AI技術「tsuzumi」の強化についても明確に示されている。

このうちtsuzumiの強化について、今回のフォーラムで講演を行ったNTT 執行役員 研究企画部門長の木下 真吾氏は「2025年10月に発表した最新版の『tsuzumi 2』では、言語モデルの規模を1つのGPUで運用可能なサイズに抑え、オンプレミスでのセキュアで低コストの運用を可能にしているほか、tsuzumi 2の数倍から10倍規模の言語モデルをサポートした製品と比べても遜色のない日本語性能を実現しています。また、金融、医療、自治体といった日本の業種・業態に特化した追加学習により、学習効率を大幅にアップさせています」と説明し、こう続ける。

「tsuzumi 2はスクラッチで開発した国産AIであり、日本の言語・文化、著作権、ライセンス条件、技術継承などに関する日本の主権を守ることができます」

さらに、NTTは今回のフォーラムにおいて「音声対話AI」を展示・デモし大きな注目を集めている。これは、電話の時代から続く音声対話の研究と豊富なデータを生かしたAIだ。自然な相槌や割り込みなど、人間的な双方向対話を実現することができ、コールセンターなどにおける接客の人材不足や過重労働といった社会課題の解決をめざしている。

一方、島田氏は、「IOWN」のロードマップに言及し「2023年に商用化した『IOWN 1.0』では、ネットワークの中継装置やデータセンタ間の接続を光化するものでしたが、2026年度内に商用提供を開始する『IOWN 2.0』からは小型の『光電融合デバイス』(光エンジン)によってコンピューター内部における配線の光化を推し進めていく計画です」と明かし、以下のように説明を続ける。

「これまで、コンピューター内部における部品間の接続には電気配線が使われ、それがAI用インフラなど、内部で大容量通信を発生させるコンピューターの発熱量・消費電力を相当の勢いで増大させてきました。その電気配線を光化することで、AI用インフラの発熱量・消費電力を大幅に低減させ、スケールの壁を打ち破ることが可能になります」

NTTでは、「IOWN 2.0」においてコンピューター内部のボード間接続を光化し、2028年からは超小型の光エンジンを採用した「IOWN 3.0」により、CPU/GPUパッケージ間通信の光化に取り組むという。さらに、2032年ごろには「IOWN 4.0」によってチップ内通信の光化を実現し、ICT基盤の消費電力を従来の100分の1に低減させる目標を掲げている。

こうした計画を踏まえつつ、島田氏は「NTTではこれからもAI時代、量子時代に適合したコンピューティング革新を推し進め、サステナブルな未来の実現に貢献していきます」と抱負を示した。

⇒「IOWN」の詳細はこちら