5Gで実現、止めてはいけない通信インフラの進化 公共安全、電力、鉄道…「できること」の可能性

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災害時に、もし警察や消防の通信が途絶したら? 電力網や交通の制御が失われたら? こうした「止まってしまうと社会が混乱する」ミッションクリティカルな社会インフラの機能を高めているのがモバイル通信だ。高速・大容量・低遅延で多数同時接続が可能な5Gの登場により、さらなる進化を遂げようとしている。世界各国の政府機関や重要インフラ事業者にミッションクリティカルなネットワークソリューションを提供してきたエリクソン。その技術部門を担う2人のキーパーソンに、社会インフラがどう変化しようとしているのか、グローバルでどのような事例があるのかについて聞いた。

情報伝達力が向上し、省力化・自動化が進む未来

ミッションクリティカルなインフラでは、かねてより無線ネットワークが活用されてきた。警察や消防などの公共安全領域では、迅速な対応のため情報伝達を素早く行う必要がある。電力網や鉄道網では、安全かつ効率的な運用のため、多数のセンサーを無線でつないでいる。

ただ、従来の通信が取り扱うのは、音声や信号が中心だった。通信可能なデータ容量が限定的だったということもあり、インフラを運用するうえで最も重要な「止まらない」ことを最優先にしていたからだ。その常識を大きく変えようとしているのが、高速通信規格「5G」である。

エリクソン技術部門 アジア太平洋地域 先端技術担当ディレクターのクリストファー・プライス氏は次のように説明する。

「5Gによって、高速・大容量、低遅延、多数同時接続などの要件に応じた通信が可能になりました。加えて、用途に応じて複数の仮想ネットワークを構築できるなど、通信の安定性と信頼性が大幅に向上しています。

例えば災害時に地上の無線が使用できなくなったとしても、衛星通信へシームレスに切り替えるといったことも可能で、ミッションクリティカルなネットワークはさらに“止まりにくく”なります」

エリクソン 技術部門 アジア太平洋地域 先端技術担当ディレクター クリストファー・プライス氏
エリクソン 技術部門 アジア太平洋地域 先端技術担当ディレクター
クリストファー・プライス氏
ICT業界で25年以上の経験を持ち、通信およびクラウド技術に特化した上級管理職を歴任。ソフトウェア定義の初期段階からクラウドネイティブ運用に至るまで、ICTテクノロジーの変革の最前線で活躍。オープンソース、標準化、産業用製品開発に豊富な経験を持つ

ここで言う「仮想ネットワーク」とは、ネットワークスライシングという技術を使って、1つの物理的な5Gネットワークを用途ごとに分割することを意味する。この技術によって、ほかの通信による混雑に影響されることのない、専用の高品質な通信環境が確保できるというわけだ。音声や信号にとどまらず、高精細な映像のリアルタイム共有や遠隔制御、AIを活用した運用の最適化などが可能になるという。

これらの進化によって、ミッションクリティカルなインフラで「できること」が従来よりも拡大していくとエリクソン・ジャパン CTOの鹿島毅氏は話す。

「映像の場合、音声に比べて伝えられる情報量が格段に多いため、情報伝達力が非常に強くなります。例えば火災の広がり方や崩落の危険箇所、要救助者の位置などを、言葉で説明するよりも早く、正確に共有できます。これにより、現場や指令センターで迅速な状況判断が可能になり、消防や災害救助の活動がスムーズになって人命や財産が守りやすくなると思います。

さらに、AI技術と組み合わせれば、不審車両の照合なども容易になるでしょう。AIによる画像解析などで障害物を迅速・的確に検知できるため、道路や橋、エネルギー施設などの保守点検にも役立ちます。また、必要なタイミングで必要な場所にネットワークが構築できますので、防衛の領域でも力を発揮します」(鹿島氏)

ほかにも、電力需給を制御するスマートグリッドに5Gを活用することで、停電などのアクシデントの際は、その発生範囲や時間を最小限に抑えやすくなる。また、鉄道においては、高精度の列車位置情報や運行制御の高度化により、省力化・自動化が一段と進むことが期待できるようになる。

海外事例に見る「5Gネットワーク」の価値

注目したいのは、5Gの活用が社会課題の解決に直結しうることだ。鹿島氏は「特に、人口減少問題へのインパクトは大きい」と指摘する。

「5Gを活用すると、システムをリアルタイムに自動制御しやすくなり、省人化につながります。さらに、自動制御を搭載することで、自然災害などで障害が起きても復旧しやすい仕組みにできます」(鹿島氏)

エリクソン・ジャパン CTO 鹿島 毅氏
エリクソン・ジャパン CTO
鹿島 毅氏
モバイル通信の分野で20年以上従事し、研究、国際標準化、技術マーケティング、事業開発など複数の役割で貢献。現在、日本におけるエリクソンの技術連携と長期的な技術戦略の推進を担当している

そうしたデータを統合管理する基盤が整えば、「ミッションクリティカルDX」も進む。従来は特定の用途での限られた機能しか果たせなかった通信が、情報伝達力の向上により現場の迅速な意思決定や運用の効率化をサポートする、強靭でインテリジェントな通信へと進化することも期待できるだろう。

ミッションクリティカル領域で次世代通信が実現する可能性

プライス氏は「すでに海外では、いくつもの事例があります」と話し、エリクソンがソリューションを提供している5Gミッションクリティカルネットワークの事例を紹介する。

「例えばオーストラリアでは、消防車などの緊急車両にルーターを取り付け、車両を中心に独立した『通信エリア』を展開させています。オーストラリアは国土が広大で、通信インフラが整っていない場所もあるため、そうやって緊急時に通信を止めないよう工夫しているのです。

さらに、単に音声や文字情報を伝えるだけでなく、火災の状況、気温、風向きといったデータも送受信できるように設計されています。従来の通信エリア外に移動した場合でも、衛星接続をバックアップとして利用することで通信手段が維持され、安全で包括的な活動を支えています」(プライス氏)

また、ハンガリーでは5Gの仮想技術を活用して、警察や消防、救急などの公共安全向け専用ネットワークを構築し、通信の接続性を担保しつつ、救急隊員がビデオ通話を利用して遠隔の専門医と相談したり、警察官がボディカメラやドローンからのライブ映像を共有して状況を認識したりできるようにするなど、現場での緊急対応の支援につながっているという。

このようにグローバルで豊富な実績を積み上げてきた強みを日本でも生かしていきたいと鹿島氏は続ける。

「日本においても、ミッションクリティカルな領域で使われているレガシーなネットワークを刷新する需要が高まっています。その際には、どのような方法が適切か、コストも含めて幅広く検討する必要があります。既存の資産やエコシステムを生かすことも含め、エリクソンの知見を役立てたいと考えています」(鹿島氏)

ネットワークの刷新が、産業の強化に貢献するワケ

日本において、5G活用のミッションクリティカルネットワークを整備する意義は大きい。なぜなら世界でも人口減少が進んでいる国の1つであり、大規模な自然災害が多く、社会インフラの老朽化も課題となっているからだ。

プライス氏は「日本はほかの国と比べても、5Gのミッションクリティカルネットワークをスピーディーに構築できるポテンシャルがある」と強調する。

「成功のカギを握るのはローカルなエコシステムです。ほかの国では、ローカルパートナーを探すのに苦労することもありますが、日本は多様な産業それぞれに、デバイスベンダーやソリューションプロバイダーがいます。これは大きなアドバンテージです。私たちも日本でのR&D(研究開発)投資を進め、日本企業のパートナーとしてエコシステム構築に寄与したいと考えています」(プライス氏)

その強みを生かしたローカルエコシステムの構築によって、ミッションクリティカルなインフラの充実だけでなく、産業全体の競争力強化にもつながっていくと鹿島氏は力を込める。

「幅広いパートナーと協業して5Gネットワークを構築していくことで、システムのモダナイゼーションも進めることができます。そうすれば、結果的に日本の産業のあらゆる分野で効率化が進み、産業の基盤の強化につながっていくでしょう」(鹿島氏)

これは決して希望的な観測ではないとプライス氏も続ける。

エリクソンのクリストファー・プライス氏と鹿島 毅氏

「5Gは、単に速く大容量のデータをやり取りできるだけのテクノロジーではありません。設計段階からエンド・ツー・エンドで高度なセキュリティ機能が実装されています。そして、仮想ネットワークを多数構築できますので、幅広いユースケースにも対応できます。だからこそ、さまざまな企業とコラボレーションをすることが、社会や産業の変革につながると確信しています」(プライス氏)

社会を支えるミッションクリティカルなインフラ。5Gによるその進化は、単なる技術革新ではなく、新たな未来をつくる挑戦でもあるだろう。日本の産業が持つポテンシャルと、グローバルな知見の組み合わせによって、安全でインテリジェントな社会基盤が築かれようとしている。

ミッションクリティカルな状況に対処するための通信ネットワーク - Ericsson 詳細はこちら